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八王子郊外の新興住宅地「けやきの丘」に建つ一戸建てで、尾木幸則(おぎ ゆきのり)&里佳子(りかこ)夫妻が惨殺された事件から1年後の夏。房総の漁港で暮らす槙洋平(まき ようへい)&愛子(あいこ)親子の前に田代哲也(たしろ てつや)と称する男が現われ、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬(ふじた ゆうま)は新宿のサウナで大西直人(おおにし なおと)と称する男と出逢い、母・小宮山真由(こみやま まゆ)と沖縄の離島・波照間島へ引っ越した女子高生・泉(いずみ)は田中(たなか)と称する男と知り合う。
其れ其れに前歴不詳の3人の男達。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也(やまがみ かずや)は、一体何処に居るのか?
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芥川賞作家・吉田修一氏の小説「怒り」。「殺人を犯した後、整形をして逃亡を続ける。」、「残されたメモから、犯人がゲイの可能性が浮上し、CGで作成された女装の指名手配写真が公開された。」、「犯人は、異様に鋭い一重の目をしている。」等、7年前に発生した「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」の犯人を思わせる内容。
前歴不詳の3人の男が登場し、全てが“怪しさ”を有している。「田代哲也」、「藤田優馬」、「小宮山泉」、そして山神一也を追う巡査部長「北見壮介(きたみ そうすけ)」という4人の視点から状況が記されて行くのだが、彼等が得る“新情報”に、読者は「彼奴が犯人と思っていたんだけど、此奴の方が怪しくなって来たな。」と、何度も振り回される事だろう。
上&下巻併せて5百頁を超える長編だが、宮部(みゆき)作品の様な冗漫さが無く、ぐいぐいとストーリーの中に引き込まれて行った。人の持つ「怖さ」や「優しさ」、「弱さ」等を感じ、「遣り切れない哀しみ」に共鳴。
総合評価は、星4つとする。
漁港・肉体労働or体育会青年・ゲイ・怪しいエリート?・何か犯罪、わー吉田ワールド!
(悪人ではゲイの部分が「出会い系」)
「悪人」には引き込まれました。映画は見てなくって、妻夫木は良い俳優と思いますが、綺麗過ぎるから、綾野剛のほうがはまるんじゃないかな、と思いました。
実は吉田修一氏の作品で読了したのは、今回の「怒り」が初めてでした。「平成猿蟹合戦図」も図書館で借りたものの、読んでて余り気乗りがせず、途中で断念したものですから。
作品リストを確認すると、映画化される等、見覚えの在る物が幾つか在り、「悪人」も其の1つでした。
「絶対にしてはいけない事」と「しても許される事」というのの“一般的な”境界線が非常に曖昧になって来ているというか、「しても許される事」側へどんどん拡大して来ている面も在る様に感じています。自分が学生だった頃にも、宿題等で他者の“成果”を写したりした事は在ったけれど(此れは此れで、許される事でも無いとは思いますが。)、でも“良心の呵責”と申しましょうか、「其の儘全部写すのは良く無いな。」という思いが心の何処かに在り、一部を自分形に改変したりしていた。
でも、昨今は読書感想文や論文をも、他者のを全文丸写しするケースが増えているとは聞いていたのですが、こんなのは凡庸な連中だけで在り、能力の高い人は例外と思っていたのですが・・・。
今話題の中心の方が、「“コピペ”をするのが、悪い事とは思っていなかった。」と釈明しているという話が在り、もし此れが事実ならば、「勉強面では非常に優秀も、社会人としては余りにも幼稚。」と言わざるを得ず、非常に残念な思いが。
話は一寸逸れてしまいましたが、他の吉田作品も面白そうですね。機会を見付け、読んでみたいと思います。
内館牧子さんだったと思うのですが、昔、ひめゆり平和祈念資料館を訪れた際の話を書いておられました。若くして亡くなられた女生徒達の写真を目にし、遣り切れない思いになっていた所、女子高生の集団が騒ぎ乍ら入館して来たそうです。其れだけでもどうかと思うのに、写真を目にするや「うわー、不細工!」、「変な顔!」等の暴言を吐き、ケラケラ笑っていたとか。引率する教師も注意しないどころか、一緒になって笑っていたのを目にして、憤りを覚えたと書いておられました。
常識の無さも然る事乍ら、自分が彼女達の立場だったら・・・そういう相続力が余りにも欠如しているのでしょうね。過去の歴史を真剣に学び、そして教訓としている若人も少なからず居ると信じていますが、逆にアホとしか言い様の無い者も増えている。戦没者の犠牲の上に、今の日本が在る事を、もっと真摯に捉えて欲しいものです。