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視聴率が低迷し始めたTBNの報道番組「ニュースイレブン」。其の梃入れとして、栃本治(とちもと おさむ)という男が、関西の系列局から異動して来た。視聴者受けを重視する関西人の栃本と、報道の理念に拘るデスクの鳩村昭夫(はとむら あきお)は早速衝突し、現場には不穏な空気が漂い始める。
一方、此れ迄幾つものスクープを物にして来た番組の名物記者・布施京一(ふせ きょういち)は、何故か10年前に町田で起きた大学生刺殺の未解決事件に関心を寄せていた。被害者の両親が、犯人逮捕の手掛かりを求めて今も猶、駅前での片配りを続けているのが記憶に残ったと言う。
此の件の継続捜査を、警視庁特別捜査対策室のヴェテラン刑事・黒田裕介(くろだ ゆうすけ)が担当する事を知った布施は、何時もの様に黒田へ接触を図る。布施と黒田が又しても動き始めるが、真相解明に到る糸口は余りに乏しく、謎だけが深まって行く。
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今野敏氏は数多くの人気シリーズを生み出しているが、其の内の1つ「スクープ・シリーズ」の第4弾が、今回読んだ「アンカー」で在る。
今野作品の特徴に、「優れた能力を有し乍らも、自身としては自分に自信を持つ事が出来ず、部下への対応に苦慮している主人公が登場する。」というのが在る。凡庸な自分からすると、「優秀なのに、何でそんなにも自分に自信が持てないんだろう?」と思ってしまうのだが、同時にそういう人物に対して親近感を覚えたりもする。今野作品にファンが多いのも、そういう人物造形に魅了される人が多いからではないだろうか。
TBNの報道番組「ニュースイレブン」のデスクを務める鳩村は、「報道とは、こう在るべきだ。」といった感じの堅物。そんな彼からすると、会議には顔を出さない事が多く、掴み所の無い部下・布施は頭痛の種。彼からすると好い加減な勤務態度にしか思えない布施が、次々とスクープを物にするのだから、余計に面白く無い。
そんな状況下、新たに関西の系列局から異動して来た栃本は、「ニュースで在っても、面白く無ければ視聴率は稼げない。」なんて言うものだから、鳩村には頭痛の種が増える事に。
異分子が放り込まれると、其の組織はガタガタとなり、結果として収拾が付かなくなる事が在る。今の民進党がそんな感じだが、中には「最初はガタガタするけれど、異分子の存在が“強烈な化学反応”を引き起こし、結果として組織は良い方向に向かう。」という場合も。
ネタバレになってしまうが、栃本という異分子が放り込まれたニュースイレブンの場合は、後者に当たる。堅物の鳩村は、布施に加えて栃本という存在が加わった事でより疑心暗鬼となり、ニュースイレブンは解体の危機に陥るのだが、結果として組織が良い方向に向かうのは、偏に「非常に堅物だけれど、真摯に番組を作ろうとしている鳩村の気持ちを、部下達がきちんと理解していた。」からだろう。崩壊の危機を迎えた組織が、一転して結束する。其の過程を追うのは、実に興味深かった。
総合評価は、星3つとする。