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叙述トリック:人物や時間等の記述を意図的に暈す事で、読み手をミスリードさせる手法。
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叙述トリックを十八番とする作家・折原一氏。彼は幾つかのシリーズ物を著しているが、今回読了した「侵入者 自称小説家」は、「~者シリーズ」の第13弾に当たる。此の「~者シリーズ」は「首都圏女性連続殺人事件」や「神戸連続児童殺傷事件」、「広島一家失踪事件」、「松山ホステス殺害事件」等、実際に発生した事件を下敷きにした作品が多い事でも知られているが、「侵入者 自称小説家」は「世田谷一家殺害事件」と「板橋資産家夫婦放火殺人事件」が下敷きになっていると思われる。
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北区十条で起きた一家4人殺害事件。発生後半年以上経っても、解決の目途が立たず、迷宮入りが囁かれる中、“自称小説家”の塚田慎也(つかだ しんや)は、遺族から奇妙な依頼を受ける。「此の事件を調査してくれないか?」。以前、同じく未解決の資産家夫婦殺人事件のルポを書いた事から、白羽の矢が立ったのだ。百舌の速贄、車椅子の老人、ピエロのマスクを被った男・・・2つの事件に奇妙な共通点を見出だした塚田は、或るアイデアを思い付く。遺族をキャストに、事件現場で再現劇を行う事で、犯人を炙り出すのだ。
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(「~者シリーズ」の第11弾に当たる)「潜伏者」のレヴューで記した様に、実在の事件を下敷きにした作品の場合、仮令内容がフィクションと頭で理解していても、実在の事件の関係者と書かれている内容を重ね合わせてしまうのは避けられず、特に其の内容が実在の事件の被害者側に悪い印象を与えてしまう様な場合は、読んでいる側としても複雑な思いになってしまう。今回の作品の場合も、正直読後感は良くなかった。
又、此れは「叙述トリック物を著す上で避けられない事」と言えるのだろうけれど、展開がどうしても似た様になってしまう嫌いが在る。「読み手をミスリードさせる為、言動者が誰だか判らないので苛々する。」のは未だしも、「“時間”を誤解させる為、登場人物達が気を失ったり、急に眠ってしまったりという、一寸不自然な記述が少なく無い。」というのは、作品を読み重ねて行く上で“飽き”が出て来る。飽きを生じさせない程、内容に魅力が在れば良いのだが、「侵入者 自称小説家」に関して言えば、其処迄の魅力は無かった。
総合評価は、星2.5個とする。