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隣に座った女性は、良く行く図書館で見掛ける彼の人だった。
片道僅か15分のローカル線で起きる、小さな奇跡の数々。乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、軈て希望の物語が紡がれる。
恋の始まり、別れの兆し・・・途中下車1人数分のドラマを乗せた電車は、何処迄もは続かない線路を走って行く。
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近年、其の著作が次々に映像化されている作家・有川浩さん。今回読了した小説「阪急電車」も、昨年映画化された。
「阪急電車」というタイトルを初めて目にしたのは、5年前の事。「有川浩」という作家名も知らない頃で、「鉄道マニア向けのトリヴィアなのかな?」と思ったりもしたのだが、其れにしては表紙のイラストが可愛らし過ぎる感じも在り、「何なんだ?」と手に取ってみて、「どうやら恋愛小説らしい。」と判った経緯が。
兵庫県宝塚市の「宝塚駅」から同県の西宮市に在る「西宮北口駅」間を走る阪急電車の車内を舞台に、其処に乗り合わせた人々の姿を描いた作品。「宝塚駅-西宮北口駅」間の8つの駅を1往復し、各駅でのストーリーを、合計16編の短編小説に仕上げている。
阪急電車の存在は知っているけれど、其の詳細は良く判らない自分。だから「甲東園駅」という章のタイトルを見た時は、「阪急電車にも、『甲子園駅』が在るんだ。」なんぞと、間抜けな勘違いをした程。
「売れっ子の作家は面白い題材を見付けるべく、常に周りにアンテナを張り巡らしているんだなあ。」と今回の作品を読み、改めて思った。実際、有川さんが阪急今津線の車内で見聞した、女子高生と思しき集団が交わしていた爆笑会話も、ストーリーの中に上手く盛り込まれている。
同じ車内の出来事を「章」を変え、別の人間の目を通して描いているのだが、其れにより「そういう事情が在ったのか。」という新たな発見が。折り返し後の章「門戸厄神駅」は、特に其の効果を発揮していた。
総合評価は、星3つ。
浪人生時代、午後1時頃という乗客が余り居ない時間帯に、山手線に乗って車内で英単語やら年号やらを、参考書片手に覚えていたりしていました。環状運転の山手線は1周が約1時間で、(本当はいけない事なのですが)1駅分の切符を購入して“図書館代わり”に使っていたのですが、約1時間という「限が良い時間潰し」も然る事乍ら、“勉強”の合間に外の風景を見たり、車内の人間観察が出来たりと、リフレッシュに良かったというのも在ります。今は「場内に入って一定時間が経つと、追加料金が取られる。」様ですから、出来ない事でしょうが、懐かしい思い出話の1つです。
「図々しいおばちゃん一派」と一括りにされてしまう中にも、此の小説に登場するおばちゃんの様に、本当はそういった一派から離れたくて仕方ないという人も居るんでしょうね。“村八分”にされてしまう恐怖心って、大人も子供も変わらない。