後になって考えれば

近しい人間が亡くなってから一定期間を経ると、故人との思い出を“過去の物として”振り返られる日が来る。そんな時、後になって考えれば「故人が自身の死を予感していたかの様な言動」をしていた事に気付かされる事が在る。其の言動を見聞した時には別段気にも掛けていなかったが、「今思えば・・・。」という経験をされた方は少なくないのではないか。

医者から「風邪を拗らせたと思われるので、自宅で安静にしていて下さい。」と言われた父が、会社を休んだ日の事。家族で夕食を取り終えた後、ＴＶ番組を一緒に見ていた際、日本酒のＣＭが流れた。すると唐突に父が自分（ｇｉａｎｔｓ－５５）に向かい、「御前が大人になったら、屋台で酒を飲みたいなあ。」と言った。表情を変えるでも無く、サラリと言われたので特に気にもしていなかったのだが、父が病気で急死したのは其れから２週間程後だったか。家族は勿論の事、父自身も自分が亡くなるなんて思っていなかったと言うのに・・・。

病気らしい病気をした事が無かった祖父が、年末にふらっと我が家に立ち寄った。元々せっかちな祖父だったが、其の日は何時もにも増してせかせかしていて、夕食を取り終えると直ぐに「じゃあ帰る。」と。靴を履いて玄関を出ようとした時、「大事な事を忘れてた。少し早いけど此れ。」と自分達に御年玉を手渡し、「此れが最後かもしれないけれど。」と言って帰って行った。「『此れが最後かもしれないけれど。』って、縁起でも無い事を言うよねえ。」と家族は苦笑していたのだけれど、其の祖父が不慮の事故で亡くなったのは数ヶ月後の事。

癌で亡くなった祖母は、癌という診断を受ける半年程前から「子供の頃の夢を最近は矢鱈と見るのだけれど、何でなのだろうか？」と不思議がっていたと言う。結構な高齢になると「過去の思い出」を良く振り返る様になるとは言うけれど、祖母の場合は其れ程高齢という年齢でも無かったのだけれど。

もう一人の祖母は「不思議な夢を見た。」と話してくれた。或る国の民族衣装を着用した少女達が実に楽しそうに踊っていて、祖母に向かって「此方にいらっしゃい。」とばかりに手招きをしたのだと言う。「本当に楽しそうだったので『行こうかな。』とも思ったのだけれど、其処でふっと目が覚めた。」のだそうだ。海外に行った経験は皆無の祖母故に、何故其の国の民族衣装が夢に登場したのか判らない。祖母自身や親戚関係、そして判る範囲での先祖に海外出身者は居ない。本当に不思議でならない夢だったが、其れから１ヶ月も経たない内に祖母は病で天国へと旅立って行った。

無意識の内に自身の体調不良を感じ取り、其の事で自身も気付かないまま、不思議な言動を取らせるのだろうか？