************************************************
空き家の数だけ家族が在り、家族の数だけ事情が在る。
不動産会社で空き家のメンテナンス業に携わる水原孝夫(みずはら たかお)。両親の介護を終えた妻・美沙(みさ)は、瀟洒な洋館で謎の婦人が執り行う「御茶会」に参加し、介護ロスを乗り越えつつ在った。然し、空き家になっている美沙の実家が、気鋭の空間リノヴェーターによって遺体安置所に改装され様としている事を知り・・・。
元戦隊ヒーローの息子・研造(けんぞう)、研造を推す70代の3人娘「追っかけセブン」等、個性豊かな面々が、空き家を舞台に繰り広げる涙と笑いのドラマ、此処に開幕!
************************************************
重松清氏の小説「カモナマイハウス」を読了。重松作品を読んでいると、其の世界観に堪らなく懐かしさを感じてしまうのは、1963年生まれの彼と同年代だからだろう。自分が幼かった頃の思い出が、彼の作品の設定(当時の世情等)とオーヴァーラップし、どっぷり感情移入させられてしまう。
************************************************
・長年の恨みが積み重なったあげくの熟年離婚―ではなかった。過去ではなく未来に目をやって、そこになにも見えないからこそ―。未来の出来事については反省も後悔もできない。謝ることも、埋め合わせることも、償うことも叶わない。
・「居住者のいない家屋も同じです。『空き家』と呼んでしまえば、それまでです。でも、水道や電気やガスのインフラが整っていながら、住む人がいないということは、逆に考えれば、制約なしに使える状態でもあるわけですよ。アイデア次第でいくらでも活用できるんです。しかも、その数がすごい。西条(さいじょう)さん、いま全国に空き家がどれくらいあるかご存じですか?」。「2018年の時点で849万戸ですよね。」。「素晴らしいっ。下調べ完璧ですね。すごいな。じゃあ、空き家率って―。」。「13.6パーセント。ざっくり7軒に1軒が空き家ということになります。
」。
************************************************
「海外の場合、古い家で在ってもきちんと手を入れれば、家の価値が下がらなかったり、逆に上がったりする事は珍しく無い。一方、日本の場合は概して、手を入れたとしても年月が経てば、どんどん価値は下がり、軈て価値は零になってしまう。多湿等、環境の違いというのも大きいだろうが、『一般家屋に対しても、歴史的価値を重んじる。』という概念が、海外と日本では異なるというのも在るのではないか。」という主張を以前、何かの本で読んだ事が在る。確かに、そういう面は在りそうだ。
どんなに家族との思いが刻み込まれた家で在っても、赤の他人で在る業者にとっては「単なる古い家で在り、二束三文の価値しか無い。」と見做されてしまうのは、“一般常識”としては理解出来るのだが、“感情面”では拒んでしまう自分が居る。「自身の思い出自体が安く捉えられ、そして軽んじられてしまった。」様な気がするから。だから、此の作品に登場する「自宅に対して金銭的な価値では無く、思い出等の付加価値に重きを置いている人達。」の気持ちは痛い程判る。
個性的な登場人物達が作品に彩りを与え、そして深みを持たせている。時に笑わせ、時にいらっとさせ、時に泣かせる。“人情喜劇”という表現が、重松作品にはぴたりと当て嵌まる。
総合評価は、星3.5個とする。