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名前も年齢も住所も全く違うのに、言動や身熟し、癖に奇妙な共通点が在る。彼等は「チェーン・ピープル」と呼ばれ、定められた人格「平田昌三マニュアル」に則り、日々、平田昌三的で在る事を目指し、自らを律し乍ら暮らしているのだ。
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“奇妙で不思議な設定”を十八番とする作家・三崎亜記氏。「1人のインタヴュアーが6人の人物にスポットを当て、彼等が歩んで来た人生の軌跡を辿って行く。」という形式の小説が、今回読んだ「チェーン・ピープル」で在る。
「ウルトラマンは正義の味方と言われるけれど、何で縁も所縁も無い地球人を命懸けで守ってくれるのか?」、「怪獣と闘う際、ウルトラマンはビルやタワー等を結果として破壊している。」等の指摘は、昔からされて来た事。「ウルトラマン=正義の味方」とする考え方に対し、シニカルな目を向けた指摘では在るのだけれど、確かに言われてみたら、考えさせられる事柄では在る。そんな観点から書かれたのが、巻頭の章「正義の味方」だろう。
「『自叙伝』では無く『似叙伝』、其れは依頼主の依頼を受け、彼等の全く事実では無い半生を記した物だが、そんな似叙伝を書く人物。」を描いた「似叙伝」や、「ゆるキャラ界に突然現れ、一躍人気者となった“ぬまっチ”。彼が他のゆるキャラと完全に異なるのは、被り物を一切していない、普通のおっさんで在る事。甲高い声で言葉尻に『~っチ』と話し乍ら、御座なりな態度を崩さない人物。」を描いた「ぬまっチ」等、現実に存在する者達を登場させ乍ら、奇妙で不思議な設定が作り上げられている。「全国何処でも画一的で無難な味を提供している『チェーン店』に準え、マニュアルで定められた人格を演じている(?)チェーン・ピープル。」を描いた「チェーン・ピープル」も、其の例外では無い。
人間社会が抱えている欺瞞や悪意を、非現実的世界を通してシニカルに浮かび上がらせている。表面的な事柄だけに騙され、「わっ!」と一方向に流れてしまう日本人の危うさを常々感じているので、そういう意味では「ぬまっチ」は面白かったし、個人的に言えば、最後の章「応援」が最も印象に残る作品だった。
総合評価は、星3.5個とする。