ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「イン・ザ・プール」

2010年05月07日 | 書籍関連
印象深い俳優が又2人、鬼籍に入られた。北林谷栄さん(享年98歳)の場合は年齢的に大往生といった感も在るが、佐藤慶氏(享年81歳)に関しては「もう少し、あの演技を見せて欲しかった。」という思いが。

北林さんを初めて知ったのは、ドラマ「おくさまは18歳」(動画)だったろうか。“御婆ちゃん役”で知られた彼女だが、この時の役も既に祖母役だったっけ。又、佐藤氏と言えば感情を押し殺した、冷酷非道な役が実に上手い俳優という印象が在る。出演作は幾つも思い浮かぶけれど、多感な時期に上映された「白日夢」は強烈な印象を自分に残している。ナレーターとしても一流の人だった。合掌

*****************************************
不定愁訴解消の一環として始めた水泳に嵌まってしまい、毎日相当量を泳がないと不安を感じてしまう様になった「プール依存症」の男。24時間勃起しっ放しになってしまった、「陰茎硬直症」の男。常に誰かから監視されている様に感じしてまう自意識過剰な女性。どんな些細な事でも携帯電話でメールせずにいられず、一時たりとも携帯電話を放せなくなってしまった「携帯電話依存症」の男子高校生。「煙草の火が消しただろうか?」、「ガスの元栓は閉めただろうか?」等、一つの事柄が気になると何度でも確認せずにはいられない「強迫性障害」の男性。自らの“病”を治療して貰うべく、「伊良部総合病院」の地下に在る神経科を訪ねた5人の患者達。彼等を待ち受けていたのは同病院の跡取り息子にして、半端じゃない変人の精神科医・伊良部一郎*1だった。患者に注射を打つのが大好きで、人の話を聞かずに一方的に話し捲る彼は、とんでもない“治療法”ばかりを提示するが・・・。
*****************************************

先月読破した「空中ブランコ」(著者:奥田英朗)は、「精神科医・伊良部シリーズ」の第二弾に当たる。そして今回読破した「イン・ザ・プール」はその第一弾だ。兎に角、「破天荒」という表現がピタリと当て嵌まるのが、伊良部一郎というキャラクター。唯我独尊にして無遠慮。他者がどう思おうが全く無関係に、エキセントリックな言動をこれでもかと為す傍目から見ていたらこれ程面白い人間は居ないだろうが、同時に知り合いだったこれ程迷惑で不快な人間も居ないだろう。

5つの短編小説から構成されているこの本。中でも「携帯電話依存症」を扱った「フレンズ」が、個人的には一番興味深かった。伊良部病院の在る地下に足を踏み入れた瞬間に「いま地下室。チョー不安。」と、ドアをノックして「いらっしゃーい。」という伊良部の甲高い声を耳にすると「『いらっしゃーい」だって。再びチョー不安。」と、そして伊良部の姿を目にすると「カバだよ、カバ。むちゃ不気味。」等と、兎に角どんな事柄でも絶えずメールで誰かに伝えないと不安で仕方が無い男子高校生が登場する。1日に送信するメール数が200通以上というのだから、こりゃあ半端じゃない。

でも、この手の携帯依存症の人は程度の差こそ在りすれ、老若男女を問わず結構居る様に感じる。電車内のみならず、道を歩き乍らとか、酷い場合には誰かと話している最中でも相手の目を見ずに、一心不乱に携帯電話の画面を見詰め乍らメールを書いている(打っている)ケースもしばしば見掛けるし。又、この男子高校生の様に、ネット上で知り合った顔も見た事の無い人間をも「親友」として認識し、少しでも多くの人間と“繋がって”いないと不安で仕方無いという人も、これ又少なからず居る。会った事も無い“親友”を信じ、金銭を巻き上げられてしまったなんてニュースを見聞すると、「人の良さ」というよりも「社会性の無さ」を、申し訳無いけれど自分は感じてしまうのだ。そういう意味で、「フレンズ」は興味深い内容だった。

常識外の“治療”を行う伊良部。しかし、その常識外の“治療”が、結果として患者達の症状を和らげて行く。「其処には伊良部の緻密な計算が在り、本当はとんでもない天才名医なのではないか?」と一瞬思ったりもするが、「はちゃめちゃな治療が、結果オーライに結び付いているだけ。」というのが実際の所だろう。でも、最後の最後には患者達を心服(?)させてしまうのだから、伊良部は大した人間だ。

総合評価は星3つ

*1 伊良部一郎のキャラクターを知れば知る程、蛭子能収大先生が思い浮かんで仕方無い。

コメント    この記事についてブログを書く
« 身勝手さ | トップ | 知っていても、敢えて判らな... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。