モルガン・スタンレー等を経て、投資会社でM&A等を手掛ける“ぐっちーさん”なる人物が、AERAで「ぐっちーさん ここだけの話」というコラムを連載中。9月15日号は「カジノなくともギャンブル大国」というタイトルで、「カジノ誘致問題」に付いて触れている。
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「カジノなくともギャンブル大国」
日本にもカジノを‐そんな話が、大分前のめりになって進んでいます。どうやらモデルは、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ辺りの様で、日本から国会議員や関連事業者が大挙して押し掛けています。カジノをGDPの押し上げ効果が高いと言いますが、本当でしょうか?
確かに、シンガポールは観光業がGDPの5%程を占めています。カジノ収入はマリーナ・ベイ・サンズとリゾート・ワールド・セントーサを合わせると、年間4千億円程。此れはGDPの1%相当分なので、決して小さい数字とは言えません。
しかし、日本は様相が全く異なります。既に日本は「ギャンブル大国」とでも言うべき状態で、ギャンブルの市場規模は、何と24兆円にも上ります。然も、驚くべき事にパチンコ・パチスロだけで市場規模は約20兆円。カジノで4千億円を売り上げた所で、微々たる物。今更、そんな物を作って何の経済効果が在ると言うのでしょうか?
実は本家本元のアメリカでは、「カジノ離れ」が進んでいます。ラスベガスに次ぐカジノ都市、アトランティックシティーでは、大手カジノ業者が相次いで撤退しているのです。価値観が多様化した今日、単なるカジノでは人々は満足しません。
本気で作るならば、賭博場で終わらない工夫が必須。ラスベガスの様に、一大ショー・ビジネス・タウンを作る様な都市デザインが必要でしょう。
ベット・ミドラー等、全米にはラスベガスでしか歌わない一流の歌手が数多く居ます。詰まり、其処でしか見る事の出来ないショーが多く存在する訳です。ショーが見たくて全米から人が集まり、其の人達がカジノで遊ぶ‐ラスベガスのビジネス・モデルは、決してカジノが主体では無いのです。ホテルも素晴らしく、ラスベガスのホテルに泊まる事自体が目的という人も居ます。
どうも今の日本のカジノ議連を聞く限りに於ては、徒の賭博場の延長線でしか無く、そんな物を作って今更どうするのだろう、という気がします。
そう言えば、「パチンコ税」を目論む自民党議員に、警察庁の担当者が「パチンコで換金が行われている等、全く存じ上げない。」と答えた、という話が報道されていました。寧ろカジノの解禁が、こうした“グレー・ゾーン”を取り払う切っ掛けになれば良いのですが。
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「『パチンコ店』、『景品交換所』、『問屋』が其れ其れ、人的にも資本的にも独立しているという前提で、客がパチンコ店で獲得したパチンコ玉を“特殊景品”と交換し、其の特殊景品をパチンコ店の直ぐ傍に在る景品交換所が現金で買い取る。そして、其の特殊景品を景品交換所は、問屋に卸す。」というのが、所謂「三店方式」。実際には「客が獲得したパチンコ玉を、換金している。」という現実が在るのだけれど、景品交換所や問屋を介在させる事で、「直接、換金なんかしてません。だから、パチンコは刑法で禁止されている賭博には当たらず、全く問題在りません。」というのが、パチンコ店や警察のスタンス。パチンコ業界に多くの天下り先を得ている警察としては、口が裂けても「パチンコで換金が行われている等、当然存じ上げていました。」なんて言える訳が無い。
国内へのカジノ誘致に関しては、与野党共に前のめり状態と言って良い。(反対しているのは、共産党や社民党位ではないか?)彼等は、海外で既にカジノを誘致している国を挙げ、「国内にカジノを誘致すれば、こんなにも薔薇色の未来が待っている。」と喧伝している。
が、中には、全く怪しい主張も在ったりする。「○○では、カジノを誘致した事で、こんなにも歳入が増えた。」と、歳入が大幅に増えた数字を提示するも、詳しくデータを分析すると、「カジノ誘致前の歳入は、“世界的な大不況で歳入自体が大幅に落ち込んだ数字で、誘致後の歳入に関しては、景気回復率を考慮すると、カジノ誘致の恩恵は然程無かった。」りしたケースも在ったし。
「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺が在る。「風が吹けば、砂埃が舞う。→舞った砂埃で、目を病む人が増える。→目を病んだ人が増えれば、失明する人も増える。→盲人が増えれば、音曲で生計を立て様と、三味線を習う人が増える。→三味線を習う人が増えれば、三味線の胴に張る猫皮の需要が増える。→猫皮の需要が増えれば、猫の数が減る。→天敵で在る猫の数が減れば、鼠の数が増える。鼠の数が増えれば、齧られる桶の数が増える。→齧られる桶が増えれば、桶が多く売れる様になり、桶屋が儲かる。」と、“都合の良い解釈”を並べ立てる論理構成だ。
「国内にカジノを誘致すれば、こんなにも薔薇色の未来が待っている。」と喧伝する人達(此れは、国会議員だけでは無いけれど。)の主張には、「風が吹けば桶屋が儲かる的な論理」が強く滲む物も少なく無い。「新しい利権(天下り先の創出、闇に流れるアングラマネー、事業者からの政治献金等々。)の獲得在りき。」で、国家や国民なんぞは全く眼中に無い連中が、専ら前のめりでカジノ誘致を主張している様に感じる。
パチンコだけに限っても、様々な問題が指摘されている。「警察との癒着」や「児童の車内放置」、「脱税」等色々在るが、「パチンコ依存症」も大きな問題だ。以前、海外でカジノを誘致した国の特集が、報道番組で組まれていた。具体的な数字は忘れてしまったが、「カジノ依存症患者の治療に費やされる費用は非常に莫大で、其れを差っ引いたらカジノ誘致による利益は、トータルで言えばそんなに多く無く、マイナス要素が結構在る。」という印象だった。
「国民の意見は一切無視して、何でも彼んでも拙速に推し進める。」というのが、現政権の基本スタイル。「私が日本の最高指導者なのだから、其の私が決めた事に、馬鹿な国民が反対するなんて一切許さない!」という事なのだろうが、「無知蒙昧としか思えない言動を繰り返す、実に幼稚な最高指導者。」に「馬鹿」と思われているのだとしたら、国民も哀れとしか言い様が無い。
カジノ誘致は、「負」の面にも確り目を向けた上で、徹底的に議論すべき問題と思う。「カジノ誘致、先ず在りき。」で話が進められる事だけは、絶対に在ってはならない。