今回扱うテーマは非常にセンシティヴな面が在り、何時も以上に配慮して書く所存だけれど、「事故の被害者に対して批判する気持ちは全く無いし、又、加害者を擁護する気持ちも全く無い。」事を御理解戴きたい。加害者及び被害者とは全く無関係な立場の自分が、飽く迄も「自分が加害者、乃至は被害者の立場だったならば、どうだろうな?」というのを、極力感情を排除して書いてみる。
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・刑の執行段階等に於ける被害者等の心情等聴取・伝達制度(心情等伝達制度):「犯罪被害者や遺族の思いを刑務所職員等(刑務官・法務教官)が直接聞き取り、其の内容を直接加害者に伝達し、犯罪被害者や遺族の心情を踏まえて加害者を指導。そして、伝達した刑務所職員等は、加害者に伝達した際の反応を犯罪被害者や遺族に書面で通知する制度。」で、2023年12月から開始された。
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昨夜、TBSで放送された「news23」で、「心情等伝達制度」を取り上げていた。不勉強で申し訳無いのだが、自分は此の番組で初めて同制度の事を知った。
此の制度が開始される迄、「事件や事故が起こった際、其の被害者や遺族が刑務所に入っている加害者に気持ちを伝えるには、加害者が面会を認めない限り、加害者に直接手紙を送ったり、加害者の弁護士等を通じて伝える位しか無かった。」と思う。「加害者が実際に其の手紙を読んだかどうかも判らなかったし、又、弁護士が被害者や遺族に対して加害者の反応を"絶対に"伝えなければ成らないという訳でも無かったろうから、被害者や遺族が遣り切れない思いを抱え続ける事"も"在ったろう。
そんな事情を考慮し、開始されたのが「心情等伝達制度」な訳だが、番組を見ていて思ったのは、「こういう制度が開始された所で、加害者と被害者や遺族との気持ちが、100%一致するのは無理なんだろうな。」という事。
16年前(だったと思うが)、飲酒をした上で100km/時超の運転をしていた男性が車に衝突し、2人の男女が死亡、2人の男女が今も続く後遺症を負うという、非常に痛ましい事故が在った。被害者遺族として番組に出られていた女性にとって、亡くなった男女は義理の父母、そして後遺症を負った男女は(義理の?)弟&妹に当たると言う。加害者は裁判で懲役16年の刑が確定し、彼は服役。心情等伝達制度が開始された事で、服役中の加害者に対し、被害者遺族は思いの丈を伝達して貰った。
伝達した刑務所職員等からの通知書面では、加害者が反省している感じは伝わって来たのだが、彼が出所して以降の言動に、被害者遺族はどうしても納得出来ない部分が在ったと言う。
「出所したら、被害者の命日に、事故現場に花を捧げたい。」とする加害者に対し、被害者遺族は「被害者が好きだった白と紫の花を捧げて欲しい。」と要望。そして、命日に現場を訪れた所、要望した通りの花が捧げられていたのだが、"実際の事故現場とは微妙にずれた場所"だった。
又、加害者からは「仕事をする上で、車を運転したいと思っている。」との意向が届いた。「出所後も、連絡を取り続けたい。」と被害者遺族は考えていたが、出所後の彼からは"居場所"の連絡が来る事は無かったと言う。
「あんなに酷い事故を起こしたのだから、事故現場を正確に覚えておいて欲しかった。『仕事をする上で、車の運転が必要。』というのは判らばいでは無いけれど、車が必要無い仕事だって在る訳なので、車を運転するというのは止めて欲しかった。」と、被害者遺族の女性は語っていた。
大事な人を失った許りか、今も重い後遺症に苦しむ身内を抱えているのだから、彼女の気持ちは充分過ぎる程に理解出来る。「出所したら居場所を教えないって、もう反省して無いんだろう。」と彼女が思ったとしても、其れも理解出来る。
だが、同時に「深い反省をし続けていた"としても"、事故現場を微妙にずれて記憶していたり、『仕事をする上で、どうしても車の運転が必要。』と成ってしまう加害者の立場も、全く理解出来ない訳では無いなあ。」という思いも在る。「大きな事故を起こしてしまった反省は、一生し続けなければいけない。」のは当然だが、「罪を償って出所した上で、一生、被害者遺族と連絡を取り合わなければいけない。」と成ってしまうのも、相当に辛いだろうな。」とも。
2019年に発生した「池袋暴走事故」は、非常に大きく報道された。全く罪の無い母子2人が死亡する等、多くの被害者を生んだ事に加え、運転していた男性が当時87歳と非常に高齢で在った事、そして満足に運転出来る様な状態では無かった上に、"責任逃れをする様な言動"に終始した事で、世論は加害者男性への批判で溢れ返った。加害者男性は所謂"上級国民"で在った事からか、中々逮捕されなかった事も、国民の怒りを増させた。自分もそんな怒れる国民の1人だったし、愛する妻子を失った男性には深い同情の思いしか無かった。
結局、加害者男性は裁判で「禁錮5年」の実刑が確定し、2021年10月12日に東京拘置所へ収監されたのだが、今年10月26日に刑務所内で93歳にて獄死していた事が、先日明らかと成った。其の訃報を受け、妻子を事故で無くした男性が会見していたのだが、「収監後、彼は刑務所に出向き、加害者と面会していた上、加害者からも反省の手紙を受け取っていた。」と言う。加害者は「事故の責任が自分に全て在る事を認めた上で、自分の様な加害者を生み出さない為にも、『高齢ドライヴァーの運転免許証の自主返納』を自分に代わって訴えて貰えないだろうかと謝罪&懇願していた。」そうだ。
加害者の深い反省等が伝わった事で、「其れ迄は彼に対する恨みの思いしか無かったが、今は『人生の最期を、こういう形で迎えなければならなかった。』事に、哀れみの思いも在る。」という趣旨の発言を彼はしていたが、「加害者と被害者の気持ちが、充分理解し合える。」という事は無いだろうけれど、少しでも彼の気持ちが楽に成れたとしたら、其れは「良かったなあ。」と思う。