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明治後期の北海道の山で、猟師というより、獣其の物の嗅覚で、獲物と対峙する男、熊爪(くまづめ)。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化・・・全てが運命を狂わせて行く。
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第170回(2023年下半期)直木賞を受賞した小説「ともぐい」(著者:河﨑秋子さん)は、「日露戦争勃発前夜、一般社会と隔絶された北海道の山中で、1人猟師として生活する男・熊爪の日常を描いた作品。」だ。彼はアイヌの里で育てられ、猟師として山中で暮らしていた“養父”によって育てられた。本当の親の事は一切知らず、恐らくは何処ぞの女が産み捨てた赤子の自分を、養父が引き取ったのではなかろうかと。養父からは山中で生きる術を叩き込まれたが、或る日、老いた養父は猟犬を連れて家を出て、以降帰る事は無かった。そういう厳しい環境で育った熊爪が、“穴持たずの熊”と出会い、奴を仕留める事を決め、そして・・・というストーリー。
兎に角、“自然の厳しさ”が犇々と伝わって来る作品。気候の厳しさもそうだが、何よりも“生き物”、此れは“人間”も含まれるが、「“本能”で“同類”を殺したり、其の殺された“生き物”を貪り食う“生き物”の姿。」が描かれており、其の描写からは「血肉の匂いや骨が嚙み砕ける音等が、耳元で実際に聞こえて来る様なリアルさ。」が在る。
舞台となっているのは、日露戦争勃発前夜という、実に不透明で不安さを感じさせる時代。そんな時代も在ってか、登場人物達の中には、得体の良く知れない、不気味さを感じてしまう様な者が少なく無い。一部ネタバレになってしまうが、最後に熊爪を殺す事になる或る人物なんぞも、其の典型な気がする。「殺害動機が何なのか?」、自分には全く理解出来なかったので。
自然の厳しさも含め、“生きて行く事の過酷さ”を痛感させられた。ストーリーの中にぐっと引き込んで行く筆致の高さは在るが、読後感は非常に悪い。
総合評価は、星3つとする。