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「芥川賞に又吉、羽田さん=芸人で初-直木賞は東山さん」(7月16日、時事ドットコム)
第153回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が16日夕、東京・築地の新喜楽で開かれ、芥川賞は御笑いコンビ「ピース」で活躍する又吉直樹さん(35歳)の「火花」(文学界2月号)と、羽田圭介さん(29歳)の「スクラップ・アンド・ビルド」(文学界3月号)に決まった。直木賞は東山彰良さん(46歳)の「流」(講談社)が選ばれた。
又吉さんは初候補で、現役の御笑い芸人として初の受賞を果たした。作品は2人の御笑い芸人の友情と葛藤を描いた中編。天才的なセンスを持ち乍ら、時流に乗れず、身を持ち崩す神谷と、彼を慕う徳永が、様々な人間関係や漫才論議を通し、互いの芸と生き方を見詰めて行く。
受賞決定後の会見で又吉さんは、「芥川に褒められる自信は無いが、兎に角嬉しい。」と喜びを語った。
羽田さんは、4度目の候補での受賞。作品は、30前の就職浪人が祖父を如何に「究極的な安楽死」に導くか思いを巡らす姿を通じ、現代社会の病理を描く。日々肉体改造に励む孫と、介護を受けつつ、図太く生きる祖父の心理戦が印象的だ。
選考委員の山田詠美さんは又吉さんの「火花」に付いて、「書かざるを得ない切実な物が迫り、欠点も在るが、主人公と先輩の火花の散る関係が上手く出ていた。1行1行に芸人としてのコストと人生経験が掛かっている。」と評価した。
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3ヶ月前、又吉氏の「火花」を読んだ際、自分は総合評価を「星4つ」とさせて貰った。芸能人が著した小説は、此れ迄にも何冊か読んで来ているが、其の殆どは「芸能人が書いたという事で、出版して貰えたというレヴェル。」だったけれど、「火花」は実に読み応えの在る作品で、「“芸能人”が著した小説の中で一番。」というだけでは無く、「“1人の作家”が著した作品としても可成りの出来。」だったから。
なので、「火花」が第153回芥川賞候補になった時点で、「九分九厘受賞するだろう。」と思っていた。「初候補で芥川賞を受賞。」というのも凄いが、御笑い大好き人間としては「“現役の御笑い芸人”として、初の芥川賞受賞。」というのが嬉しい。今回の受賞は決して“話題賞”等では無く、実力で勝ち取った物だ。おめでとう!
小説「九年前の祈り」のレヴューでも書いたが、此処数年の芥川賞受賞作品には、「何で、こんな作品が受賞出来たの?」とガッカリしてしまう物が目立っていたが、羽田氏の「スクラップ・アンド・ビルド」もネット上の評価が高い様だし(自分は未読。)、芥川賞受賞作品としては久々に評価出来る2作となりそう。
直木賞を受賞した東山氏の「流」も未読なのだが、此の作品も「面白い。」という声を、良く見聞していた。彼は第1回(2002年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で「銀賞」を得た「逃亡作法 ~TURD ON THE RUN~」でデビューするも、個人的には此の作品が全く面白く無く(総合評価は星2つ。)、「流」も読むのを躊躇していた。彼が作家として何れだけ“成長”したのかを、近い内に「流」を読んで、確認したいと思っている。
文学賞が乱立している昨今、賞を受賞したからと言って、作家として飯が食えるとは限らない。「受賞後、作品を数冊発行して消えてしまう。」なんていうのが殆ど。知名度の高い芥川賞だって、歴代の受賞作家の顔触れを見ると、申し訳無いが“売れっ子作家”となったのは一握りに過ぎない。受賞はスタートラインで在り、以降、何れだけ魅力的な作品をコンスタントに生み出し続けられるかが大事。
作家としての又吉氏には、“1つの型に嵌まった作風”では無く、“毛色の変わった作品”を、次々に著す事を期待している。其の意味でも次の作品は、自身のテリトリーで在る御笑いの世界では無く、彼にとって“未知なる世界”を舞台にし、出来れば長編小説に挑んで貰いたい。「火花」を読んだ限りでは、十二分に“対応”出来る筆力を、彼は有していると思うので。