ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「星を喰った男」

2008年04月16日 | 書籍関連
潮健児」という役者を御存知だろうか?彼の名を知る若い人は非常に少ないだろう。否、中年以上でも彼の名を知らない人は結構居るかもしれない。だが、彼の演じた役名を見聞すれば、ぱっとその姿が思い浮かぶ人は多い事と思う。「悪魔くん」(動画)でのメフィスト弟役、「河童の三平 妖怪大作戦」(動画)でのいたち男、「人造人間キカイダー」(動画)でのカイメン男等々、特撮番組の悪役として欠かせない存在だった彼だが、最も有名なのは「仮面ライダー」(動画)で演じたショッカー大幹部・地獄大使(動画)役だろう。“昭和の”仮面ライダー・シリーズを夢中になって見ていた自分だが、仮面ライダーの大幹部達の中では天本英世氏が演じた死神博士に次いで好きなのが地獄大使。冷酷非情な死神博士に対し、何処か間抜けでおっちょこちょいな地獄大使。気が弱く、何故か憎み切れない小悪党。というのが、潮氏は実に似合う役者だった。

この稀代の名脇役の晩年を、所属プロダクションの社長として見守って来たのが唐沢俊一氏。今やサブカルチャーを扱う番組のゲストとして欠かせない存在の彼が、潮氏の取った膨大なメモ、そして潮氏本人へのインタビューを元に纏め上げた“自伝”が「星を喰った男」で在る。

和菓子屋の長男として生まれ、軍隊生活を送った(同じ陸軍飛行学校には、丹波哲郎氏及び犬塚弘氏が居たとか。)後、人気絶頂だった古川ロッパ氏の弟子に。そして2年後に“破門”されて映画の道に足を踏み入れ、やがて東映の“大部屋俳優”の中から頭角を現して行き、特撮番組で大ブレークする経緯がユニークな口語体で記されている。

「大の仮面ライダー・ファンの子供から『御父さんは偉い役者だって言うけれど、仮面ライダーに出ていないじゃないかと言われ、一時は『仮面ライダー』への出演を熱望していたという“天下の”萬屋錦之介氏から、『地獄大使は御父さんの友達だ。』と息子に言った手前、親父の沽券に関わるので何とか地獄大使の格好で家に来て貰えないかと頭を下げられた。」、「大監督と呼ばれた人物が晩年は仕事に恵まれず、某デパートの駐車場係を務めていた。アメリカの様な映画関係者の生活を保障させる団体を、日本でも早く作らなければいけないと思う。」、「スクリーン上の姿とは全く異なる、寂しがり屋で陽気な“後輩”の高倉健氏。」等々、興味を惹かれる話の数々。“銀幕のスター”という表現が未だ生きていた頃の、映画人達の素顔が垣間見られる。

見るからに悪役といった顔の役者が年を重ねると好々爺の様な役が増えて行く一方で、元二枚目役者がやがて悪役に転じて行くケースが多い理由を人間にとって顔っていうのは、やっぱり感情の起伏を表す道具なんでしょうね。感情の起伏の激しい人間に、余り悪人は居ない様に思うんです。怒るにしろ喜ぶにしろそれが極端な人間というのは、裏返せば素直で二面性が無いという事ですから。・・・だから、喜怒哀楽を露骨に出す芝居の多い悪役俳優っていうのは、年を取るに従って善人の役が回って来る事が多くなる。反対に、余りそういった事を大仰に出さない、まあ言ってみればスカした演技の多い二枚目というのは、何か腹の中の知れない、陰謀でも企みそうな人間に見えてしまう事が多い・・・そんな事じゃないか、と思うんですね。と分析しているのも、なかなか面白い。

特撮番組出身の役者の中には、特撮番組を「子供が見る、レベルの低い番組」とでも思っているのだろうか、自分の経歴から意図的に消している“様な”者も見受けられる。特撮番組をこよなく愛する自分としては憤りを感じてしまうのだが、この本からは特撮番組を心から愛している潮氏の姿が強く感じられて嬉しい。

役者生活四十余年、今一番遣りたい役は?と訊かれたら、やはり、子供番組の悪役って答えます。だって、本当に気持ちが良い役なんだもの。

潮氏が心不全で亡くなられ、その葬儀の場に“部下”のショッカー戦闘員達が現れて「イーッ!」という哀悼の言葉を捧げてから、今年で15年が経つ。

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アラメイン伯さんブログでよく見かけます (Shah亜歴)
2008-04-16 23:37:10
実は私のブログのテーマ・ソングが仮面ライダーです。私のブログの副題にもある通り、特撮は子供じみたものでなく、現実社会を投影しています。

そもそもバイオテクノロジーが発達し、改造人間も現実味を帯びた生命倫理の問題となっています。

映画の「The First」や「The Next」は特にそうです。

giants55なら良いのですが、giants25にだけはならないで下さい。BALCOの薬物騒動に関わった彼は「悪の改造人間」です。あ、でも今はそのGiantsをクビになってどこも契約してくれないそうですが。
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>Shah亜歴様 (giants-55)
2008-04-17 00:29:15
初めまして。書き込み有難う御座いました。アラメイン伯様のブログでこちらを知って下さったとの事で、わざわざ覗いて戴いた事深謝に堪えません。

「特撮番組が子供じみた物では無く、現実社会を投影している。」というのは全く同感。もっと踏み込んで言えば、下手な道徳の教材よりも遥かに「人間の生き方」をさらっと教えてくれる教材だとも思っております。小難しい言葉や社会の仕組み等も、特撮番組から自然と覚えて行きましたし。

「giants25」、「BALCOの薬物騒動」、「悪の改造人間」、「GIANTSを首になって何処も契約してくれない」という記述に、「一体誰の事だろう?」と。パッと頭に浮かんだの野○貴仁投手(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E6%9D%91%E8%B2%B4%E4%BB%81)の名前でしたが、彼の背番号は「95」だったし・・・。一寸考えて、「嗚呼、GIANTSはGIANTSでも、サンフランシスコ・ジャイアンツのバ○ー・ボンズ選手(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%82%BA)の事か!」と思い到った次第。彼ならば背番号「25」でしたもんね。

今後とも何卒宜しく御願い致します。
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悪の美学 (れんたろう)
2008-05-01 11:05:24
潮さんの著書は10年以上前に図書館で読んだ記憶がありますが、唐沢さんが手がけていたんですね。

20年以上前に「メイキング・オブ・東映ヒーロー」という本を買ったのですが、そこにあった「バイプレイヤー座談会」には、潮さん同様に、特撮番組の悪役を演じたベテラン役者さんたちの愛情溢れるコメントが多かったです。

堀田真三「やはり、実写ヒーローというのは、子供たちに夢を与える、ある意味では現代のメルヘンですね。」

中田博久「悪はかっこよくなければいけませんね。そのかっこいい悪を、ヒーローが倒すというのが醍醐味ですからね。」

石橋雅史「ナチュラルな悪の世界を描くために、舞台調の演技にして、格調高く演じました。」

堀田真三「悪の演技というのは、バカに見えない程度のオーバーな演技で演じ、悪の出るシーンを別世界にしてしまう。」

汐路章(故人)「自分が演じる悪役になりきって、豹変できればいい。」

悪役商会の山本昌平さんは、自ら衣装デザインやメイクも行なっていたそうですが、氏はこうしたヒーロー番組の悪役を
「センスのある役者じゃないとできませんね。」
と語っていました。プライドを感じますね。
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