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皆、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、6人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母1人、子1人なのは良いとして、父親が4人も居るんだよ。しかも、皆何処か変わっていて。俺は普通の高校生で、極普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて・・・。
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伊坂幸太郎氏の作品「オー!ファーザー」は「ギャンブル狂の鷹」、「冷静沈着にして、博識の悟」、「女性を惹き付けるフェロモンを放つ、イケメンの葵」、そして「熱血漢で格闘技好きの勲」と、年齢も風貌も個性も全く異なる“4人の父親”を持つ高校生・由紀夫が主人公。と言っても、本当に由紀夫と遺伝子が繋がっているのは、この内の1人だけ。それが誰なのかは由紀夫のみならず、4人の父親の誰も判らない。母・知代は彼等4人と同時進行で付き合っていたのだが、男達は皆それを知らないままに、やがて知代は由紀夫を身籠る事に。その事実を知っても4人の知代に対する思いは変わらず、結局は誰とも籍を入れない形で、皆が共同生活を送る事になったという経緯。何ともはちゃめちゃな設定で在る。
伊坂氏自身が記した後書きによると、この作品は彼の中で「自身の第一期の最後に当たる作品」という位置付けなのだとか。文壇デビュー以降、ユニークな作品を次々に産み出して来た彼だが、彼としては作風のマンネリ化を感じていた様だ。其処で「今迄とは少し違う小説を創ろう。」という事で著したのが3年前に刊行された「ゴールデンスランバー」で、彼はこの作品以降を「第二期」と定義している。詰り、この「オー!ファーザー」は伊坂氏が作風のマンネリ化に懊悩していた“頂点”で産み出された作品とも言える訳だが、そんな雰囲気を全く感じさせないコメディー・タッチの作品に仕上がっている。
「伏線の張り方が実に上手い。」というのは伊坂作品の特徴の一つだけれど、この作品のそれは半端じゃ無い。幾つもの箇所でその緻密な伏線を知る事になり、「あれは、そういう事だったのか・・・。」と感心させられた。又、4人の父親達のキャラクター設定も見事。「鷹は寺島進氏、悟は三浦友和氏、葵は谷原章介氏、そして勲は小西博之氏といった感じかなあ。」等と、映像化された際のキャスティングを思い浮かべつつ、頁を捲り続ける。個人的には、最後の3頁にほろっとさせられた。
心に残ったのは次の文章。
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教科書を開き、ノートに書き写したキーワードを眺め、図表を書いてみる。こうして書いてみると、日本の歴史は簡単なフローチャートみたいだな、と由紀夫は苦笑する。戦で死んでいった人間たちの、たとえば、矢で刺された苦しみや、残された子供の絶望、窮地に追い込まれた政治家の緊張はまるで浮き上がってこない。あるのは、戦の結果と制定された法律や制度ばかりだ。「だから。」と悟が言っていたのを思い出す。「だから、今の政治家もどちらかにこだわるんだ。戦をはじめるか、もしくは、法律を作るか。歴史に残るのはそのどちらかだと知ってるんだ。地味な人助けはよっぽどのことでないと、歴史に残らない。」
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総合評価は星3.5個とする。
皆、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、6人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母1人、子1人なのは良いとして、父親が4人も居るんだよ。しかも、皆何処か変わっていて。俺は普通の高校生で、極普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて・・・。
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伊坂幸太郎氏の作品「オー!ファーザー」は「ギャンブル狂の鷹」、「冷静沈着にして、博識の悟」、「女性を惹き付けるフェロモンを放つ、イケメンの葵」、そして「熱血漢で格闘技好きの勲」と、年齢も風貌も個性も全く異なる“4人の父親”を持つ高校生・由紀夫が主人公。と言っても、本当に由紀夫と遺伝子が繋がっているのは、この内の1人だけ。それが誰なのかは由紀夫のみならず、4人の父親の誰も判らない。母・知代は彼等4人と同時進行で付き合っていたのだが、男達は皆それを知らないままに、やがて知代は由紀夫を身籠る事に。その事実を知っても4人の知代に対する思いは変わらず、結局は誰とも籍を入れない形で、皆が共同生活を送る事になったという経緯。何ともはちゃめちゃな設定で在る。
伊坂氏自身が記した後書きによると、この作品は彼の中で「自身の第一期の最後に当たる作品」という位置付けなのだとか。文壇デビュー以降、ユニークな作品を次々に産み出して来た彼だが、彼としては作風のマンネリ化を感じていた様だ。其処で「今迄とは少し違う小説を創ろう。」という事で著したのが3年前に刊行された「ゴールデンスランバー」で、彼はこの作品以降を「第二期」と定義している。詰り、この「オー!ファーザー」は伊坂氏が作風のマンネリ化に懊悩していた“頂点”で産み出された作品とも言える訳だが、そんな雰囲気を全く感じさせないコメディー・タッチの作品に仕上がっている。
「伏線の張り方が実に上手い。」というのは伊坂作品の特徴の一つだけれど、この作品のそれは半端じゃ無い。幾つもの箇所でその緻密な伏線を知る事になり、「あれは、そういう事だったのか・・・。」と感心させられた。又、4人の父親達のキャラクター設定も見事。「鷹は寺島進氏、悟は三浦友和氏、葵は谷原章介氏、そして勲は小西博之氏といった感じかなあ。」等と、映像化された際のキャスティングを思い浮かべつつ、頁を捲り続ける。個人的には、最後の3頁にほろっとさせられた。
心に残ったのは次の文章。
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教科書を開き、ノートに書き写したキーワードを眺め、図表を書いてみる。こうして書いてみると、日本の歴史は簡単なフローチャートみたいだな、と由紀夫は苦笑する。戦で死んでいった人間たちの、たとえば、矢で刺された苦しみや、残された子供の絶望、窮地に追い込まれた政治家の緊張はまるで浮き上がってこない。あるのは、戦の結果と制定された法律や制度ばかりだ。「だから。」と悟が言っていたのを思い出す。「だから、今の政治家もどちらかにこだわるんだ。戦をはじめるか、もしくは、法律を作るか。歴史に残るのはそのどちらかだと知ってるんだ。地味な人助けはよっぽどのことでないと、歴史に残らない。」
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総合評価は星3.5個とする。