*********************************
探偵が国家資格となり、警察庁の下部組織「探偵機関」の特務探偵士として、知能犯罪・頭脳犯罪の捜査を担当している世界。知識人・人格者・名士として尊敬を集める探偵達の中に1人、異質な男が居た。阿久津透(あくつ とおる)。探偵機関の生みの親にして、伝説的名探偵・阿久津源太郎(あくつ げんたろう)の息子で、多くの難事件を解決に導いて来た、当代切っての論理的知性の持ち主だ。其の性格は、傲岸不遜にして冷酷非情。妥協を許さず、徹底的に犯人を追い詰める。其の苛烈さは、事件に関わった人々に無用の軋轢を生み、恨みを買う事も少なく無かった。
そんな男に、探偵資格の剝奪さえ検討され兼ねない重大な疑惑が持ち上がった。其れは、彼が証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したという物だった。
*********************************
「KAPPA-TWO(カッパ・ツー)登龍門」とは、「2002年より開始されたカッパ・ノベルスの新人発掘プロジェクト『KAPPA-ONE(カッパ・ワン)登龍門』を引き継ぎ、同プロジェクトの出身者で在る石持浅海&東川篤哉両氏を選考委員に迎え、『ジャーロ』誌上で始まった公募企画。」なのだとか。「KAPPA-ONE登龍門」は2007年を最後に発表されなくなったが、昨年から「KAPPA-TWO登龍門」と名称を変えて公募が始まり、そして第1回目の入選作となったのが、今回読了した小説「名探偵は嘘をつかない」で在る。
著者の阿津川辰海氏は1994年生まれで、東京大学在学中に此の作品で昨年、文壇デビューを果たしている。自分が注目している“ミステリー関連の年間ブック・ランキング”は「本格ミステリ・ベスト10」(発行元:原書房)、「週刊文春ミステリーベスト10」(発行元:文藝春秋)、そして「このミステリーがすごい!」(発行元:宝島社)の3つだが、「名探偵は嘘をつかない」は「2018本格ミステリ・ベスト10【国内編】」で3位に選ばれた。
「警察庁の下部組織で在る『探偵機関』」、「探偵士」、「転生」、「幽霊」等、非現実的な設定が幾つも盛り込まれている。「幽霊は生きている人間からは見えないが、幽霊は生きている人間に気付かれずに、彼等がする事を見る事が出来る。」というのは、「犯人と思われる人間がした事実を、其の人間に気付かれずに見る事が出来る。」という事だ。探偵役の人間(「生きている人間は、幽霊を見る事が出来ないのでは?」という疑問は、本を読めば解消される。)は、幽霊から見た事実を知らされており、其の事実を元にして謎を解いて行く。
漫画「DEATH NOTE」では、「名前を書いた人間を死なせる事が出来るという死神のノート『デスノート』。」が登場する。「デスノートに名前を書き込みさえすれば、誰でも死なせる事が出来る。」という事になってしまうと「何でも在り。」になってしまうので、“幾つかのデスノートのルール”が設定されているのだが、今回の作品の「転生」という設定も、幾つかのルールが取り決められており、ストーリーが無駄に広がり過ぎてしまう事を防いでいる。其れは見事では在るけれど、逆に言えば“理屈っぽい設定”にもなってしまっており、そういう点で読むのが面倒臭くなる人も居るだろう。
又、上記した様に非現実的な設定が幾つか在り、特に「転生」だ「幽霊」だという設定を嫌うミステリー・ファンも居そう。
「『週刊文春ミステリーベスト10』及び『このミステリーがすごい!』が“面白さ”を最優先させているのに対し、『本格ミステリ・ベスト10』は“論理的推理”という物を最優先させている。」様に感じている。だから、「週刊文春ミステリーベスト10」及び「このミステリーがすごい!」の上位に選ばれている作品が「本格ミステリ・ベスト10」に選ばれていなかったり、逆に「本格ミステリ・ベスト10」で上位に選ばれているのに、「週刊文春ミステリーベスト10」及び「このミステリーがすごい!」ではベスト10にも入っていない作品が在ったりするのは、決して珍しく無い。今回の「名探偵は嘘をつかない」も「本格ミステリ・ベスト10」では3位に選ばれているのに、「週刊文春ミステリーベスト10」及び「このミステリーがすごい!」ではベスト10に入っていない。
「『本格ミステリ・ベスト10』の上位に選ばれるのは、比較的“理屈っぽい作品”が多い。」という感じが在り、「名探偵は嘘をつかない」はそんな匂いが強い作品。非現実的な設定だけれど、論理的推理は存在する。好き嫌いがはっきり分かれる作風だろう。
超速読派の自分が、此の本を読むのに結構な時間を要した。「内容的に、肌合いが余り合わなかった。」という証左だろう。
総合評価は星3つ。