リアル・タイムで見て来た歴代首相の中で、最も印象に残った人物と言うと田中角栄氏を自分は挙げたい。功罪相半ばする、否、恐らく罪の方が多かった首相だろうが、良くも悪くも魅力を感じさせる大人物だった。彼を語る上で避ける事の出来ない場所と言えば、”目白御殿”と呼ばれた彼の豪邸。広大な敷地内で浴衣を羽織った彼が、1匹数百万円と言われた鯉に餌をやっていたシーン。陳情や政治家の来訪が後を絶たず、リチャード・ニクソン大統領や小平副首相等、世界の実力者達がこの邸宅を訪れたシーン。そして1987年、田中角栄氏に反旗を翻した竹下登自民党幹事長(当時)が挨拶に訪れたものの、正門前で門前払いを食らったシーンも忘れられない。戦後政治の”目撃者”とも言えるこの目白御殿が、今注目を浴びている。
6月15日付けの東京新聞(朝刊)に「緑と”昭和史”残して」という記事が載っていた。田中元首相亡き後の1990年代中頃、田中家が相続税として国に物納した約2千平米の目白御殿の敷地。椎の大木や黒松等72本が自然林の如き佇まいを見せるこの敷地は、2005年及び2006年に東京都文京区が隣接する国家公務員共済組合連合会の運動場(2.8ヘクタール)と併せて総額約144億7千万円で取得。本年度から約7億円をかけ、区立公園(「[仮称]目白台運動公園))として整備を開始。目白御殿部分は、駐車場と導入路、そして芝生広場になる予定とか。
ところがこの計画に「目白御殿内の樹木45本の伐採及び門の撤去。」が盛り込まれている事を知った周辺住民達が、「都市の貴重な自然や、昭和の遺産たる門等を残して欲しい。もっと区民の意見を聞く可き。」として「文京区のみどりを守る会」を結成。約千人の署名を集め、今月4日に計画見直しの要望書を区長に提出。この要望に対し区は、「伐採本数を45本から29本に減らす。但し門は予定通り撤去する。」という変更案を住民側に提示した。
この変更案に対して、守る会の発起人でも在る元首相の長女・田中眞紀子議員は「区が公園用地として買い取った事は感謝しているが、公園は共有物。広く意見を聞いて、将来に禍根を残さない様にして欲しい。」と話し、国立科学博物館付属自然教育園元職員の中里千尋さんは「都心に残る自然の価値を最大限生かして欲しい。門も昭和の遺産として残す可きだ。」を語っている。
以前、「美智子皇后の生家が取り壊され、区立公園になる際の騒動」をつい思い出してしまう。地元住民なる人々が「歴史的建造物を壊すのは許されない!」と口にしていたのには、「確かに昭和初期の建造物だけれども、『絶対に残さなければならない!』と主張する程でも無い気がするけど。」という思いが。そして何よりも違和感、と言うか気持ち悪さを感じたのが「美智子妃殿下の御意思に背いて立て壊すのは絶対に許さない!」という主張だった。美智子さん自身が立て壊しに賛成されていたのに、「美智子妃殿下がそんな事を言う訳が無い!」という論調。*1そして散々騒いだ挙句に立て壊しが始まると、今度は「立て壊し反対で集めた署名を公園内に埋めてくれ。記念碑も建てて欲しい。」と言った主張をし始めた記憶が在る。一体彼等は何をしたかったのか?「美智子さんの名前を借りて、結局は自己満足を充足させたかっただけではないか?」と非常に不快さを覚えたもの。
今回のケースはやや趣を異にしている様だが、区側の「住民参加の検討会を経る等、手続きは踏んでいる。出来る限り要望は反映させるが、子供の遊び場が死角になってはいけない。」と安全面からの計画推進には理解出来る所が在る。子供を狙った卑劣な犯罪が少なく無い御時世、公園内から死角を出来るだけ排除したいという行政側の思いはもっともだし、逆に木々や門を残して死角が出来た事で子供が犯罪に巻き込まれたとしたら、住民達は大騒ぎするのではなかろうか?
自然や歴史的遺物を残すのは重要な事なれど、時代に応じて或る程度は消滅して行く事も止むを得ない面が在ると思う。何処ら辺でその折り合いを付けるかは問題だし、住民達と充分に話し合いを行う事も必要だろうが、「全てを残せ。」という結論在りきではこの問題が解決する事は無いだろう。
*1 好きな言論人の一人で在る櫻井よしこさん。筋の通った言動をする彼女には好感を持っているのだが、昭和天皇が側近に漏らしたとされる言葉(を記した文献)に対し「昭和天皇がそんな事を仰る訳が無い!」という”理由”から、その言葉を偽物扱いしていたのには正直ガッカリさせられた。誤解しないで欲しいのだが、具体的な証拠を提示した上で「これは偽物だ。」、「否、本物だ。」と口にするのは全然在りだと思うのだが、彼女の様な賢明な人物が「昭和天皇がそんな事を仰る訳が無い!」という極めて感情に依拠した理由からの主張を口にしたのが残念でならなかったのだ。
6月15日付けの東京新聞(朝刊)に「緑と”昭和史”残して」という記事が載っていた。田中元首相亡き後の1990年代中頃、田中家が相続税として国に物納した約2千平米の目白御殿の敷地。椎の大木や黒松等72本が自然林の如き佇まいを見せるこの敷地は、2005年及び2006年に東京都文京区が隣接する国家公務員共済組合連合会の運動場(2.8ヘクタール)と併せて総額約144億7千万円で取得。本年度から約7億円をかけ、区立公園(「[仮称]目白台運動公園))として整備を開始。目白御殿部分は、駐車場と導入路、そして芝生広場になる予定とか。
ところがこの計画に「目白御殿内の樹木45本の伐採及び門の撤去。」が盛り込まれている事を知った周辺住民達が、「都市の貴重な自然や、昭和の遺産たる門等を残して欲しい。もっと区民の意見を聞く可き。」として「文京区のみどりを守る会」を結成。約千人の署名を集め、今月4日に計画見直しの要望書を区長に提出。この要望に対し区は、「伐採本数を45本から29本に減らす。但し門は予定通り撤去する。」という変更案を住民側に提示した。
この変更案に対して、守る会の発起人でも在る元首相の長女・田中眞紀子議員は「区が公園用地として買い取った事は感謝しているが、公園は共有物。広く意見を聞いて、将来に禍根を残さない様にして欲しい。」と話し、国立科学博物館付属自然教育園元職員の中里千尋さんは「都心に残る自然の価値を最大限生かして欲しい。門も昭和の遺産として残す可きだ。」を語っている。
以前、「美智子皇后の生家が取り壊され、区立公園になる際の騒動」をつい思い出してしまう。地元住民なる人々が「歴史的建造物を壊すのは許されない!」と口にしていたのには、「確かに昭和初期の建造物だけれども、『絶対に残さなければならない!』と主張する程でも無い気がするけど。」という思いが。そして何よりも違和感、と言うか気持ち悪さを感じたのが「美智子妃殿下の御意思に背いて立て壊すのは絶対に許さない!」という主張だった。美智子さん自身が立て壊しに賛成されていたのに、「美智子妃殿下がそんな事を言う訳が無い!」という論調。*1そして散々騒いだ挙句に立て壊しが始まると、今度は「立て壊し反対で集めた署名を公園内に埋めてくれ。記念碑も建てて欲しい。」と言った主張をし始めた記憶が在る。一体彼等は何をしたかったのか?「美智子さんの名前を借りて、結局は自己満足を充足させたかっただけではないか?」と非常に不快さを覚えたもの。
今回のケースはやや趣を異にしている様だが、区側の「住民参加の検討会を経る等、手続きは踏んでいる。出来る限り要望は反映させるが、子供の遊び場が死角になってはいけない。」と安全面からの計画推進には理解出来る所が在る。子供を狙った卑劣な犯罪が少なく無い御時世、公園内から死角を出来るだけ排除したいという行政側の思いはもっともだし、逆に木々や門を残して死角が出来た事で子供が犯罪に巻き込まれたとしたら、住民達は大騒ぎするのではなかろうか?
自然や歴史的遺物を残すのは重要な事なれど、時代に応じて或る程度は消滅して行く事も止むを得ない面が在ると思う。何処ら辺でその折り合いを付けるかは問題だし、住民達と充分に話し合いを行う事も必要だろうが、「全てを残せ。」という結論在りきではこの問題が解決する事は無いだろう。
*1 好きな言論人の一人で在る櫻井よしこさん。筋の通った言動をする彼女には好感を持っているのだが、昭和天皇が側近に漏らしたとされる言葉(を記した文献)に対し「昭和天皇がそんな事を仰る訳が無い!」という”理由”から、その言葉を偽物扱いしていたのには正直ガッカリさせられた。誤解しないで欲しいのだが、具体的な証拠を提示した上で「これは偽物だ。」、「否、本物だ。」と口にするのは全然在りだと思うのだが、彼女の様な賢明な人物が「昭和天皇がそんな事を仰る訳が無い!」という極めて感情に依拠した理由からの主張を口にしたのが残念でならなかったのだ。
アノあたりは宗教的になりやすいですわなー。
まあ実際神社で舞う舞のいくつかは昭和天皇夫妻の和歌を基に作ったものがありますし、神社神道と天皇というのの関係もみんなもっと知っておくと理知的なはずの人が突如血迷ったことを言うのかがまたわかるかも。
>美智子妃殿下がそんな事を言う訳が無
私情を決して表に出さないように日頃努力している人が、自分の生家みたいな個人的なものを残すことを強く主張するというのはありえないと思いますね。心の中では残して欲しいと思っていても。
ただ個人的にはプチ建築マニアだったりするんで、残して欲しかったですけど^^;。戦前の建築って好きだったりするんで。
何を以ってして歴史的建造物と捉えるかは人それぞれで在り、美智子さんの生家をそう捉える人が居てもおかしくはないでしょうね。又、Spa supernova様の様に、その佇まいの優雅さから残して欲しかったと思われる方も当然居られたとは思います。
唯、あの”騒動”、特に中心でワアワアやってた連中にはそういった”純粋さ”が申し訳無いけれども欠片も感じられず、「美智子皇后の為に頑張っている自分達自身に酔ってしまっている」という様にしか見えず、挙句に「これだけやった自分達の思い、即ち嘆願書を公園に埋めたり、記念碑を作るのは当たり前ではないか。」といった不遜さが見え隠れしたのが非常に不快で、気持ち悪さを感じてしまったんです。
あの生家が残されたとしたら、必然的に公開されて見学対象になると思うんです。これは人によって考え方は異なるでしょうが、自分の生まれ育った家に赤の他人がズカズカと入り込んで、ジロジロ見られるのって自分だったら耐えられないし、自分の廻りでも「そういった思いが在って、美智子さんは『壊して欲しい。』と言ったのではないだろうか。」という声が在りました。
根が捻くれ者という事も在りますが、どうも何かを錦の御旗にして声高に主張している様な連中って好きになれないんですよね。