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江戸と現代で二重生活を営む元OLの関口優佳(せきぐち ゆうか)・通称“おゆう”は、小物問屋「大津屋」の主人・正五郎(しょうごろう)から、「息子の清太郎(せいたろう)が、実の子かどうか調べて欲しい。」と相談を受ける。
清太郎を取り上げた産婆のおこうから、清太郎の出生に関する強請紛いの手紙が届いたと言う。
直接話を聞こうと、消息を絶ったおこうの行方を追う優佳で在ったが、其処で同心の鵜飼伝三郎(うかい でんざぶろう)と鉢合わせる。老中からの依頼で、然る大名の御落胤に付いて調べているらしい。
そんな中、清太郎が謎の男達に襲撃され、更にはおこうが死体で発見される。
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第13回(2014年)「『このミステリーがすごい!』大賞」に“隠し玉”として選ばれた小説「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」(著者:山本巧次氏)。「星4つ」という高い総合評価を付けた事から、第2弾の「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤」を手に取った。
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」のレヴューでも書いた様に、此のシリーズの面白さは「指紋鑑定やDNA型鑑定、ルミノール反応等、現代では普通に使われている捜査手法が、江戸の世では存在せず、従って現代の捜査手法を用いて導き出した結果を、どうやって江戸の人達に納得させるか。」という点に在る。今回の作品でも、DNA型鑑定によって清太郎が然る大名の御落胤では無い事が早い段階で判るのだけれど、優佳は其れを伝三郎達に言えず、話は「清太郎=御落胤」という方向で進んでしまう。
ミステリー好きの人間にとって、「最も怪しくない人間が、結果的には真犯人。」、「善人と思われた人間が、実は悪人。」、「思い込みを排除して考えれば、見えなかった別の部分が見えて来る。」というのは推理に於ける鉄則。其の鉄則に則って読み進めれば、或る人物の正体は早い段階で判るし、其れが判れば真犯人と其の動機を見出すのは容易だろう。伏線の張り方は相変わらず上手かったが、此の欠点は致命的。
第1弾「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」の最後で明らかになっているが、実は伝三郎も“未来から来た人間”で在る。と言っても、「“今の日本”に住み、江戸と現代を行き来する優佳。」に対し、伝三郎の場合は「陸軍特別操縦見習士官だった終戦直後、時空の歪みに落ち、以降は“当時”に戻れない儘、江戸で同心を続けている。」という違いが在る。即ち、江戸の世から見れば同じ“未来人”で在っても、伝三郎と優佳が住んでいる(た)時代には70年以上の開きが在る訳だ。
伝三郎の事を完全に“江戸時代の人間”と信じて疑っていない優佳に対し、彼女の言動から「自分と同じく、未来から来た人間ではないか?」と推測している伝三郎。だが、“未来から来た人間”と推測するも、2人の間には70年以上の時代の開きが在る事から、100%確信出来る迄には到っていない。第1弾よりは「恐らくそうだろう。」という思いが強まった程度。
御互いに好意を寄せている2人だが、良い雰囲気になると必ず、何等かの邪魔が入るのは御約束。其れをもどかしく思う優佳に対し、彼女が同じ“未来人”という確証が掴めない伝三郎は良い関係に成り切る事に躊躇している。2人の関係が今後どうなって行くかも、此のシリーズの楽しみの1つだろう。
面白い作品では在るのだが、上記した致命的な欠点がとても残念。総合評価は、星3つとさせて貰う。