20年以上も前に、つまり駆け出しでまだ「何を歌いたいか」と
「何が歌えるのか」が一致していなかった頃、共演した大先輩の
光井章夫さんが休憩時間に
「レパートリーなんてなぁ、オレなんか30曲くらいかな。
自分にしっくりくる曲だけを、大事に歌ってりゃいいんだよ」というような
意味合いのお話をしてくださったことがありました。 たぶん、私を含め
若かったVocalist達が、いろいろ新奇な曲をステージに持ち込んで
不完全な譜面で初見を強いる、というのを苦々しくも思っていらしたのでしょう
実際、若さと未熟さは周りのミュージシャンに多大な迷惑をかけていたろうな、
と思います。
で、経験を積んでそれなりにこなれてきて、伴奏のほうも馴染んでうまくいくように
なればそれでいいのか?というと、この頃特に思うのです。
「いま、自分が本当に何を歌いたいのか、目の前のオーディエンスは何を
聴きたいと思っているのか、共演者も一緒になって入り込めるような曲は・・・」
つまり「本当の自分のレパートリー」とはって。
そんなに何百曲もないような、なくてもいいような気もする。
「いつ聴いてもバンチャンのスターダストはいいねえ」というのが
Standard Loversの真骨頂ではないかな、と
ジャズバーエムズがオープンして数年の間、つまり光井さんが具合を悪くされるまで
「三管:進駐軍サウンド」として河辺浩市(Tb)芦田ヤスシ(Ts)光井章夫(Tp)
三氏のフロントで時々企画をしていました。
このたび天国に「三管」が勢揃いしてしまいました。
昨年末の愛好会に遊びに来てくださった光井さんの記事を
こんなふうに書いたのに 最後の共演
きっと河辺さんが「オヤ、バンチャン、ずいぶん早く来ちゃったね~~」と
おっしゃっているのではないかしら
「佳き時代」がしずしずと遠ざかっているような、今はそんな気持ちです。