ふと思い立って、歌舞伎座の「幕見席」に並びました。
お正月らしい日本舞踊を観たいと思って。
100人近くが切符販売の一時間前から並んで待っていましたが、
半数が海外からの観光客なのにオドロキ
この一番の寒波の中、私自身も含めて「よーやるわ」と思いつつ・・・。
そういえば前回こうして寒風吹きすさぶ戸外に(なんとかしてほしいものです)
並んだのは、旧歌舞伎座を取り壊す直前の「サヨナラ興業」の時。
「あの時はまだ、勘三郎は生きていた」と思い出すと、それからそれへとシーンがよみがえり・・・
整理券をもらって地下広場を歩きながら暖まっている間も「こんなのなかったなあ」
「でも、一幕見席の4階までエレベーターがついたのは上出来。あの頃は急な階段を
おじいちゃんおばあちゃんがえっちらおっちら登っていた。命がけみたいに」
演目は舞踊2題。
長唄「越後獅子」・・・中村富十郎七回忌追善。
踊りの名手だった富十郎の息子;まだ十代の鷹之資(たかのすけ)
様々な小道具を取り替え取り替え、新体操のようにテクニカルな振付を
生き生きと踊りぬきました。要所要所で「天王寺屋!!」の掛け声。
忘れ形見を応援する贔屓衆の気持ちが痛いほど伝わってくる。
後半は「傾城」・・・坂東玉三郎
・・・当代随一の女形。美しさに風格が加わって、拵えは花魁なのですが
なんだか天女か妖精のよう。不思議な方です。
そんな玉さまは、実はかなり体育会系だとか。いつだかある番組で、南の海での
スキューバダイビングを披露していました。 そりゃね、あんな衣装であんな踊り、
きれいなだけではできません。
そしてまた、幽霊役がこんなに似合う人もいず、汚れ役やお婆様役も大好き(に違いない)
亡き十八代目勘三郎(私たちは「勘九郎ちゃん」と言っていた時代です)とのコンビで
コミカルな役どころも大人気でした。勘三郎丈は玉さまが大好きで
「大和屋さんのあの声、あの顔。相手役の僕だけにしか見えない形の時も
その役になり切っていて本当に気持ちの入った表情を毎日見せてくれる」と
何度も語って、書いていましたね。 勘三郎はまた、アドリブの達人でもあり、
一人の色男を取り合う二人の芸者の役で絡んだ時
「何さ!ちょっとばかし顔がいいと思って!」と噛みついて客席の笑いを誘うと
玉三郎が負けずに「あたしゃね、ここ(自分の顔を指して)だけじゃないんだよ!」と
切り返して大爆笑という一幕も、本当に楽しかった
こんなに早くに思い出として語ったりするとは思っていなかったけれど
動きを追い、長唄連中(生バンド!)に耳を癒されて、
「目と耳と心のお正月」をさせていただきました。