子供のころから聴き慣れたフレーズっていろいろありますが、
意味もわからずに口ずさんでいたことが多いモノ。 時として物凄い勘違いのまま
大人になっていて、ひょっとしたところで恥をかいた・・・
という経験は、多くの方がお持ちでは?
先日、国立演芸場の中席(なかせき;ひと月を三つに分けてその真ん中の10日間)
恒例の「鹿芝居(“はなしか”の芝居という意味から)」を観に(聴きに)行きました。
もともと落語は歌舞伎から題材を取っているものも多く(「芝居噺」とも)
この中席を預かる座長の金原亭馬生さんの一門には、当代きっての歌舞伎通;
林家正雀さんを始めとする芸達者が多く、チームワークも素晴らしいことから、
毎年の恒例行事にもなっているのです。
ご縁があって何度か観ていますが、今年の演目は
『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』
「御新造さんえ、女将さんえ、お富さんえ・・・・いやさお富ぃ!久しぶりだなぁ」
「そういうお前は・・・・?」
「与三郎だ!ぬしゃあオレを、見忘れたかぁ」
・・・「しがねえ恋の情けが仇・・・・」
ま、時代的なモンですからね、このブログをご覧になる方の中では、
ご存知の方のほうが少ないかも、ですが。
普通は歌舞伎でも、この「源氏店(げんじだな・・・オリジナルの地名は
“玄治店(げんやだな)”)」の場だけをピックアップして演じることが多く、
そもそもどうしてそういう成り行きになったのかは不明でしたが、今回の中席では
まず正雀さんが馴れ初めを語り、引き継いで馬生さんが二人が引き裂かれた事情を
語って、しかる後にこの有名な場面をお芝居で演じたので、観客はみんな
急に「お富与三郎通(つう)」になりました。
これに題材を取った春日八郎のナンバー;
「粋な黒塀 見越しの松に 婀娜(あだ)な姿の洗い髪
死んだはずだよお富さん 生きていたとはお釈迦様でも知らぬ仏のお富さん」
・・・この冒頭の歌詞を
「黒兵衛」って人だと思っている人が続出(昔の話ですよ。)
さらには「神輿の材料になる松を植えているのかな?」とか、疑問だらけの歌詞
なんですけど調子のいい歌なもので、口ずさんでいるうちに覚えてしまいます。
で、後日トンデモナイ恥をかいたりするワケ。ま、大勢に影響はありませんけどね。
ちなみに現代語に訳しますと
「シャレた黒板塀の風情のある一軒家、庭の松越しに垣間見ると
ちょうど湯屋帰りで洗って束ねた髪のたいそう色っぽい年増が、
鏡を覗いて化粧をしているところ。
ややあれは元カノのお富じゃないか
木更津の海に飛び込んで死んだと思っていたのに、こんなところで
優雅な囲われ者になっているなんて、こりゃあお釈迦様でもご存知なかった
ことだろうよ。(チキショー このままで済ますもんか)」
・・・背景やら登場人物の心情やらを織り込まないと見えてこないので
英語のスタンダードよりよほど訳し甲斐があります。ん
ちなみにこの日(14日昼)は正雀さん演じるお富さんが、
帰って来た現在の旦那を迎えるところで
「まあ旦那様、お早いお帰りで」と言うと、金原亭世之介さん演じる旦那が
「うむ、思いのほか男子フィギュアが早く終わった」などとおもむろに答え、
客席は大いに沸きました。
本歌舞伎でもアドリブは腕の見せ所ですが、噺家さんたちの方は、日頃鍛えた
こういうシャレ(地口)のほうがエスカレートしてしまい、
本当のセリフがどこかに行ってしまうことも。 世之介さんブログ
いや~~、落語やお芝居は本当に楽しいですねえ。