財布

母は巾着を探している。
その中に財布が入っているのだ。
壁の中に箪笥があって、その引き出しに入っているという。
壁を壊す、中に箪笥がある、と言い続けたときがあった。
毎日「あそこを壊して」と言って、壁を指差していた。

しばらく言わなかったのに、昨日からまたそれを言い出した。
押入れの中に箪笥がある、とも言う。

夕方、デイサービスから帰って、ご飯を食べ終わり、それが始まると、私はもう何もできなくなる。

母は8時過ぎに寝たけど、私も今日はもう閉店だ。
シャッターを、がらがらーっと降ろす。

今日やらないといけなかったこと。そのままだ。
気持ちが重くなる。
でも今日はもう無理だ。

食事やトイレなどの世話をするのは、生活だから普通にするけど、こう言うのが一番気持ちが落ちる。




母がたまに思い出して、気にしているお金のことは、妹がちゃんと管理してるよ。
でも時々、財布に本物のお金を入れて、買い物したいのだと思う。
買い物しなくても、財布にお金が入っているところが見たいのだと思う。
長年主婦をやっていたのだから、それはそうだろう。そう思うのは当たり前だ。

でも本物のお金を預けたら、母は必ずどこかに隠すだろう。
いつも世話をしている、ムスメの私からは見つからないところに。
「あの子はすぐ隠す。だから見つからないように、しまっとかなかん」
それも困る、というかめんどくさいんだよなー。

明日もそれを言うだろうなー。
明日くらいは絶対覚えてる。
「箪笥の中に巾着がある」
「壁を壊して」「中に箪笥があるから」
あー。あー。
めんどくさいなー。