わたしの母は98歳です。
2年まえに大腿骨頸部骨折をするまでは、どこへでもふつうに歩いて行っていました。
骨折後は車椅子生活になり、近くの(車で20分)老人ホームで暮らしています。
かなりの認知症で、奇跡的にわたしのことがわかる以外は「すべて茫漠たる霧の中」という感じです。
先日、面会にマメを連れて行きました。
3時のおやつのあとで、母をふくめて20人くらいの老人が食堂に残っていました。
母のそばに行って「こんにちは」と声をかけると、
「ああよく来たね」と、すぐにうれしそうな笑顔になります。
ところが、マメを見ても無反応。
まったく興味なさそうです。
「**のこどもだよ、マメっていうの、3歳だよ」と紹介しても
「......」
マメの顔に不審そうな表情が浮かびます。
周囲のおとなからチヤホヤされることに慣れっこのマメ、こんなふうに無視されて戸惑っているようです。
でも、すぐに「そっか」という表情になり、
持っていったお絵かき帳を広げて、何やら描き始めます。
そして「これ大きいばあばだよ」と、かわいらしい絵を見せてくれます。
ここでようやく「この子だれの子?」という質問が母から発せられます。
「**の子だよ、マメっていうの」
「へぇ〜」
(この問答はその後10回くらい繰り返されました。)
しばらくして、食堂から母の部屋に車椅子を押して行き、トイレの介助をします。
「ほら、ズボンとパンツ下げるよ、しっかり手すりにつかまって」
「やだよ〜、出ないよ〜」
「すわれば出るよ、ほーら出たでしょ?」
などという場面を、目を丸くして見つめるマメでした。
帰るときは「もう帰るの?寂しいなあ」と言いながら、部屋の戸口で見送ってくれる母。
何度もふりかえって手をふるマメ。
「また来るね、バイバイ」と。
3人で過ごした小一時間のひととき。
フラットで落ち着いたマメの態度を見て、心がほっこりしました。
「3歳のマメが98歳の母を理解していたわってくれている」ような気がして。
マメとわたしが、介護の同志のような気がして。
さて、大きいばあばから予想外の「塩対応」を受けたマメですが、
ほかの入居者さんやスタッフさんからは「なんて可愛い!!」の声援が飛び交いました。
近寄って髪をなでたりするひともいて、まるでアイドルとファンのよう。
まんざらでもない表情のマメでした。
ま、これって「鳥なき里のこうもり」なんですけどね。