黒猫温泉
2016年07月16日 | 猫
いつかきっときみを
温泉に連れてゆこうまだ若い
きみは溌剌として疲れも知らず
温泉のありがたさも判るまいから
ここしばらくは陽のあたる
風通しのいいテラスの窓辺で気持ちよく
万歳スタイルで眠るがいいさ
きっときみを
連れていくよ 温泉へ
ぎりぎり老いた父母の
晩年を支えてくれたのは
子でもなく孫でもなく
庭に咲く季節の花々と
黒猫きみなのだった と
みんなが気付く日は来るから
そしてきみのあのフットワーク
敏捷でほれぼれとした
足腰だって弱まって
高い机に飛び乗ることもままならず
静かに老いを迎える時も来るだろうから
その時はやっと同輩になって
見晴らしのいい屋上の
露天風呂を借り切って
富士を眺めていっぱいやるのも悪くない
またたび酒は台所の
シンクの下にたっぷりともう造ってあるし
そしてたぶん
その時にはいなくなっているだろう
じじ ばばの
思い出話をはなそうね
岩魚の塩焼きをしゃぶりながら
黒猫きみを連れていくよいつかきっと
私たちの温泉へ
車に乗せて
フードもトイレも一緒にね
(清水みどり詩集『黒猫』 1997年 東京文芸館 より)
温泉に連れてゆこうまだ若い
きみは溌剌として疲れも知らず
温泉のありがたさも判るまいから
ここしばらくは陽のあたる
風通しのいいテラスの窓辺で気持ちよく
万歳スタイルで眠るがいいさ
きっときみを
連れていくよ 温泉へ
ぎりぎり老いた父母の
晩年を支えてくれたのは
子でもなく孫でもなく
庭に咲く季節の花々と
黒猫きみなのだった と
みんなが気付く日は来るから
そしてきみのあのフットワーク
敏捷でほれぼれとした
足腰だって弱まって
高い机に飛び乗ることもままならず
静かに老いを迎える時も来るだろうから
その時はやっと同輩になって
見晴らしのいい屋上の
露天風呂を借り切って
富士を眺めていっぱいやるのも悪くない
またたび酒は台所の
シンクの下にたっぷりともう造ってあるし
そしてたぶん
その時にはいなくなっているだろう
じじ ばばの
思い出話をはなそうね
岩魚の塩焼きをしゃぶりながら
黒猫きみを連れていくよいつかきっと
私たちの温泉へ
車に乗せて
フードもトイレも一緒にね
(清水みどり詩集『黒猫』 1997年 東京文芸館 より)