アルト・ハイデルベルク(129)
𝕬𝖑𝖙 𝕳𝖊𝖎𝖉𝖊𝖑𝖇𝖊𝖗𝖌
—————————【129】—————————————————
............Detlev:Alles, lieber Freund*¹, kann der Mensch in Heidelberg
...........................vertragen*², nur nicht das sogenannte*³ Alleinsein*⁴. Denn wie
...........................heißt es im Liede*⁵. » Altheidelberg, Du Fein*⁶, Du Stadt an*⁸
...........................Ehren*⁷ reich, am*⁸ Neckar und am*⁸ Rheine, kein Andre
...........................kommt dir gleich! Stadt fröhlicher*⁹Gesellen*¹⁰, an Weisheit*¹¹
...........................schwer*¹² und Wein. « Stimmt*¹³ das ?
Karl Heinrich:Ja.
............Detlev:Ausdrücklich*¹⁴ sagt also der Dichter*¹⁵: » Stadt fröhlicher
...........................Gesellen*¹⁶! « Und nicht etwa*¹⁷: » Stadt eines fröhlichen
...........................Gesellen. « Denn das wäre ein logischer*¹⁸ Unsinn*¹⁹. Prost*²º !
Karl Heinrich:(stößt*²¹ mit ihm an*²¹). Ihr Wohl*²².
............Detlev:(bemerkt*²³ erstaunt*²⁴, dass Karl Heinrich sein Glas mit offenem
............................Deckel*²⁵ auf den Tisch zurückgestellt*²⁶ hat. Er schlägt*²⁷ den
............................Deckel zu*²⁷). Einen einzigen*²⁸ Tag, lieber Freund*²⁹, geht
............................der Mensch in Heidelberg ohne Band und Mütze, das ist der
............................Erste. Denn was ist die Schönheit von Heidelberg ? Band,
............................Mütze, Freunde und eine gute Klinge*³⁰, was ?
Karl Heinrich:(schwer atmend). Ja.
————————————— (訳) ————————————————
デートレフ: どんなことだって、君、このハイデルベルクでは許される
...........................のだが、いわゆる孤独だけはいかん.だって『アルト・ハ
...........................イデルベルク』の歌にもあることだ、『古都ハイデルベルク
...........................よ、素晴らしい町よ、ライン川とネッカル川に恵まれた豊
...........................かな名声に浴する.町よ、お前に比ぶるものはない.楽しい
...........................仲間の集う町、大学とワインでもつ町』 どうです?
...........................その通りでしょう?
カール・ハインリヒ: そうですね.
デートレフ: この詩人ははっきりと言っているんですよ:『楽しい仲間の
..........................集う町』とね!そして、まさか『ひとりのやつの楽しい町』
..........................とは言っていない.
...........................だってそれは論理的に言ってナンセンスだ.さあ、乾杯!
カール・ハインリヒ: (杯を打ち合わせる).健康を祈って!
デートレフ: (カール・ハインリヒが自分のグラスをふたを開けたまま
...........................テーブルに戻したのに気づいて驚く.ふたを閉めてやる.)
...........................ねえ君、このハイデルベルクではリボンと学生帽なしで
...........................済ませられるのは1日限りなんですよ.
...........................つまり、それは第1日目だけということです.
...........................ハイデルベルクの美点とは何か? それはリボンと学生帽、
...........................それと友人たちと良い刀剣なのですよ.ね?
カール・ハインリヒ: (重い息遣いで).そうですね.
—————————————《語彙》————————————————
*1) lieber Freund:字義通りには「親愛なる友よ」という呼びかけだが、
大げさで滑稽なので、訳しません.
「私の話しかける相手は君だ」と伝えるのがこの言葉の
役目なので、「あのね君」「あのさあ」「いいかい」「君」などで
構わないと思います.これは何だろう、「間投詞」でしょうね.
*2) vertragen:(他) […⁴に](体質的、気質的に) 耐えられる、
[飲食物⁴を] 受け付ける
*3) sogenannt:(形) いわゆる
*4) das Alleinsein:(単数ノミ) 孤独; 独居、独身
*5) im Liede:古い文法書「基本ドイツ文法(昭和46年)」には、強変化名詞
は単数3格(D格)で語尾にe を添えても、省いてもいいとなって
います.Liede (D格) <Lied (ER式) 歌、歌曲
*6) fein:(形) すてきな、すばらしい
*7) die Ehre:(弱) 名誉、面目、
*8) an:「~によって」
ここでは知恵(大学)とワインによって(名高き)町、
Altheidelberg, Du Stadt にかかり、ハイデルベルクよ、お前、
大学とワインで名高きやつよ!
*9) fröhlich:(形) ❶楽しげな、上機嫌の、❷喜ばしい、楽しい、愉快な
*10) Gesellen:(単N以外すべて) <der Geselle (弱)
❶職人、「徒弟(見習い)期間を終え、職人試験に合格した者」
(身分、処遇はLehrling見習いとMeister親方の中間)
❷若者、やつ
*11) an Weisheit:[ヴァイスハイト] (弱)❶賢明さ、知恵、❷賢明な教え、処世術
*12) schwer (形) Wein を修飾して「コクのある」「濃厚な」
普通の語順はein schwerer Wein、ここではWein und schwer
(ワイン、それもコクのある強いやつだ)
*13) stimmen:(自) 正しい、事実に合う.
*14) ausdrücklich:(形) (意思・希望などが) はっきりと表明された、明確な
*15) der Dichter:(同尾) 詩人、作家
*16) fröhlicher Gesellen:G格で直前のStadt にかかり、「楽しい仲間の町」
つまり、「楽しい仲間の集う町」、乃至「楽しい大学町」
*17) etwa:(疑問文で) まさか、よもや、ひょっとして
*18) logisch:[ローギッシュ] (形) 論理的な
*19) der Unsinn:[ウンズィン] (単数ノミ) ばかげたこと、くだらないこと
*20) Prost !:(間) 乾杯!
*21) stößt...an:(自) (3単) <an/stoßen 杯を打ち合わせる
*22) Ihr Wohl: 健康を祈って;<das Wohl:(単数ノミ) 幸せ、健康、繁栄
*23) bemerken:(他) (…⁴に) 気づく
Er hat den Fußgänger zu spät bemerkt.
彼は歩行者に気づくのが遅すぎた.
*24) erstaunt:<erstaunen (他)[…⁴を] 驚かす、驚嘆させる
*25) der Deckel:(同尾) ふた; den Deckel öffnen / ふたを開ける
*26) zurückgestellt:(過去分詞)
<zurück/stellen (他) […⁴を]元の場所へ置く
Stell die Butter in den Kühlschrank zurück !
バターを冷蔵庫に戻しなさい.
*27) schlägt...zu:zu/schlagen (他) (ドアなどを) ばたんと閉める
[本など⁴を] 閉じる
Der Wind schlug die Tür zu.
風でドアが」ばたんと閉まった.
*28) einzig:(形) 唯一の、ただ一つの、
nur ein einziges Mal / たった一度だけ
*29) Freunde:(男複N) <der Freund (E式) 友だち
*30) Klinge:[文語] 刀剣
—————————≪解説≫—————————————————
「Klinge 刀剣」、つまり、ここではサーベルのことですが、ビスマルク
政権当時の大学では、学生たちはふつうにサーベルを着用していたよう
です.小説「カール・ハインリヒ」が出されたのは1899年なので、日
本ではすでに明治時代で武士の時代は終わっていました. ちなみに、
日本で初めて『アルト・ハイデルベルク』が上演されたのは1913年、東
京の「有楽座」で、ケティ役は松井須磨子、カール・ハインリヒは土肥
康元でした.両者共、日本史の教科書でおなじみだと思います.