ハイデルベルク物語
ハイデルベルク物語(1)
GESCHICHTE
VON
ALT-HEIDELBERG
1. Karl Heinlich
————————— 【1】————————————
In Karlsburg* , einer kleinen Stadt im Norden Deutsch-
lands, lebte in den achtziger* Jahren des letzten Jahrhun-
derts* ein einsamer Fürst,* der nur einen einzigen Sohn
hatte. Den Sohn eines Fürsten nennt man einen Prinzen,
und wenn er der älteste Sohn ist, dann ist er der Kronprintz
oder der Erbprinz. Dieser Prinz, von dem die Geschichte
handelt, hieß Karl Heinrich.
—————————— (訳)————————————
カールスブルク——そこは北ドイツにある小さな町な
のですが、ここに前世紀80年代(1880年代)、たっ
た一人の息子をもつ孤独な君主が住んでいました.一人の
君主の息子は王子と呼ばれました.そして長男だったため、
皇太子、つまり君主のあと継ぎでした.この物語が扱うこ
の王子の名前はカール・ハインリヒと言いました.
——————————— 《語句》—————————————
Karlsburg:ドイツ北部の小都市という設定、こちらはハイデ
ルベルクと違って架空の地名.同名の地名がドイツには
複数実在するが、これらとは別.
achtziger:「80年代の」.数字では 80er と書く.
des letzten Jahrhunderts:「前世紀の」.この場合は19世紀.
einsamer:(形) ❶孤独な、さびしい、❷人里離れた、
❸人のいない、ここでは❶「孤独な」の意味
Fürst:「公爵」「領主」「君主」「大公」.ドイツは1871年に国家
統一.
einzigen:(男性混合A格語尾)
<einzig (形)唯一の、ただ一つの
nennt:(3単現) <nennen (A格をA格と) 呼ぶ、名づける、言う
Prinzen:(男単A)<Prinz(弱)王子、皇子
Erbprinz:(男)(弱) 皇太子、(王侯の)世継ぎ
hieß:(過去3単) <heißen 不規則動詞(heißen=hieß=geheißen)
(自) ~という名前である
(他) ~という意味である、を意味する
Wie heißen Sie ? お名前は?
Was heißen Sie ? どういうこと?
———————————≪解説≫————————————————
この物語のもとになっているのはマイヤー・フェルスター
(1862-1934)が1899年に発表した小説『カール・ハインリヒ』
です.これが好評を博したため、これをもとに5幕の戯曲を書いた
のが、今学習中の『アルト・ハイデルベルク』です.
そして元の小説から、私たち初学者のために、やさしく書き直さ
れたのがこれから読む『アルト・ハイデルベルク物語』です.『ア
ルト・ハイデベルク』と並行して読むのは楽しいと思って、スター
トさせました.
学習はどうしても、難所にくると、投げ出してしまうものですが、
そうならないように、敢えて似たもの同士を並行学習する作戦を立
てました.
アルト・ハイデルベルク物語(2)
——————————— 【2】—————————————
In der kleinen Zeitung*¹, die jeden Sonnabend in Karls-
burg erschien*², stand eines Jahres im Monat April die Nach-
richt*³, daß der Prinz sein Examen am Gymnasium*⁴ bestanden
habe und daß er am 1. Mai auf ein Jahr* nach Heidelgerg*
reisen würde, um dort die Universität zu besuchen. Dr. *
Jüttner, der acht Jahre Privatlehrer des Prinzen gewesen
war, sollte ihn begleiten*⁶.
——————————— (訳)—————————————
カールスブルクで毎土曜日に発行される小さな新聞にある年の
4月、王子が大学入学試験に合格し、5月1日、向こう1年間の
予定で留学のためハイデルベルク訪問することになった旨が載り
ました.8年間王子の家庭教師だったユットナー博士が同行する
こととなりました.
..—————————— 《語句》—————————————
*1) die Zeitung:(弱) 新聞、
*2) erschien:(過去3単) <erschein (自) 現れる、出版される、
*3) die Nachricht:(弱) 知らせ、ニュース;(複) ニュース番組
*4) das Gymnasium:(_s/複¹²³⁴Gymnasien) ギムナジウム
9年制高等学校(小学校と大学の間の教育機関)
das Examen am Gymnasium:ギムナジウムの卒業試験
ドイツではギムナジウムを卒業すると、無試験でどこの
大学にでも入ることができるそうです.
*5) bestanden:(過去分詞) <bestehen (他) (試験などに) 合格する
(bestehen=bestand=bestanden)
*6) begleiten:(他) (Akkに) 同行する
アルト・ハイデルベルク物語(3)
——————————— 【3】—————————————
Einen Tag vor der Abreise wurde Dr. Jüttner zu dem
Fürsten gerufen. Der Fürst sagte:„Der Prinz geht nicht
zum Vergnügen nach Heidelberg. Ich wünsche, daß er
fleißig studiert und ein geregeltes Leben führt. Haben Sie
mich verstanden ? “
Dr. Jüttner war fünfunddreißig Jahre alt, aber er sah
wenigstens fünf Jahre älter aus.
——————————— (訳)—————————————
出発の1日前、ユットナー博士は大公殿下に呼ばれました.
大公は言いました:「王子はリクレーションでハイデルベル
クへ行くのではないのです.王子には勤勉に学問に励み、規
則を遵守した生活をしてもらいたいのだ.おわかりいただけ
たかな?」
ユットナー博士は35歳でしたが、いくぶんその歳より老け
てみえました.
..—————————— 《語句》—————————————
die Abreise:(弱、複稀) 旅立ち、出発
der Fürst:(弱) 大公
das Vergnügen:(単ノミ) 楽しみ、喜び
アルト・ハイデルベルク物語(4)
——————————— 【4】—————————————
Er sagte oft:„Mein Unglück war, daß ich in dieses traurige Schloß
kam. Die Luft ist hier so schwer und dick, daß man kaum atmen
kann. Früher war ich ein lustiger, freier Mensch, aber jetzt bin ich
krank.“
——————————— (訳)—————————————
博士はしばしば言っていました:「私の不幸はこの痛ましい城に
やって来たことだ.ここではとても空気が重たくて厚いので、
息をするのもままならない.かつては私も愉快で自由な人間だっ
たのだが、今では病人だ.
..—————————— 《語句》—————————————
das Unglück:(Eタイプ) ❶ (大規模な) 事故
❷(単ノミ)不幸、不運
traurige:(形) 悲しい
kaum:ほとんど~ない
atmen:(自) 呼吸する、 (空気など⁴を) 吸い込む
früher:(副) 以前、かつて、昔
lustiger:➡ lustig (er = 男弱N):(形) ❶愉快な、陽気な
❷おもしろい
freier:➡ frei (er = 男弱N):(形) 自由な
der Mensch (弱) 人間、人、 ein guter Mensch いい人
krank:(形) 病気の、
アルト・ハイデルベルク物語(5)
——————————— 【5】—————————————
Dr. Jüttner trank sehr gerne Bier, aber weil er unglücklich
war, trank er zu viel. Deshalb war er sehr dick geworden.
Er litt außerdem an Asthma und konnte kaum atmen.
Sein Freund, der Arzt Dr. Schneider, sagte zu ihm:
——————————— (訳)—————————————
ユットナー博士はビールを飲むのが大好きでした.でも
博士は不幸な気持ちだったので、飲み過ぎをしていました.
それだから博士はずんぐり太ってしまいました.その上、
喘息にかかっていて、もう息をするのもたいへんでした.
友人のシュナイダー医師が博士に言いました:
..—————————— 《語句》—————————————
deshalb:(副) それゆえに、それだから
litt:(過去形) <leiden [an + Dat](病気³に)かかっている.
Er leidet an Schlaflosigkeit. / 彼は不眠症だ.
außerdem:(副) その上、更に
Das Asthma:[アストマ](単ノミ) 喘息
..—————————— ≪感想≫—————————————
本編の戯曲『アルト・ハイデルベルク』を補う情報が学べて
たのしい学習教材です.尚、er を「彼」と訳すのが忠実な訳
で、独検などでは、そうしていただきたいです.ここでは日
本語があまり不自然にならないよう「博士」に変えました.
アルト・ハイデルベルク物語(6)
——————————— 【6】—————————————
„Heidelberg wird dir gut tun. Da wirst du wieder apazieren-
gehen und Berge steigen, und dann wirst du wieder gesund.“
——————————— (訳)—————————————
「ハイデルべルクなら君にはいいだろう.そうすれば、
また散歩もして山登りもするだろう、そしたら再び健康
を取り戻すだろう.」
..—————————— 《語句》—————————————
tun:(他) [影響などを] 及ぼす; 基本的な意味=「する」
Das tut nichts. / それはかまわない.
Das Medikament tut seine Wirkung. / 薬が効果を発揮する.
Heidelberg wird dir gut tun:ハイデルベルクが君に(君の健康に)
良いふうになるだろう.
→ハイデルベルクに行くのが君の健康にはよいだろう.
アルト・ハイデルベルク物語(7)
第2章:ユットナー博士
2. Doktor Jüttner
——————————— 【7】—————————————
Nach seiner Audienz bei dem Fürsten ging Dr. Jüttner
auf sein Zimmer. Er freute sich, daß diese acht Jahre
endlich vorbei waren. Auf dem Tisch stand eine Flasche
Wein. Dr. Jüttner setzte sich in einen bequemen Stuhl,
schlug ein Bein über das andere*, trank ein Blas Wein
und faltete die Hände.
——————————— (訳)—————————————
大公殿下のところで謁見を済ませて、ユットナー博士は自分の
部屋に行きました. 博士はこの8年間がやっと終わったこと
を嬉しく思っていました.テーブルの上に1本のワインがあり
ました. ユットナー博士は
..—————————— 《語句》—————————————
die Audienz:(弱en) 謁見
auf:(A格支配で) ~へ; auf ~ gehen ~へ行く
freute sich:(過去3単)<sich⁴ freuen よろこぶ、うれしく思う.
vorbei:(副) 過ぎ去って、終わって.
Der Schmerz ist vorbei. / 痛みはなくなった.
Diese Mode ist schon vorbei. / この流行はもうすたれた.
Mit uns ist es vorbei. / 私たちの仲はもうおしまいだ.
bequem:(形)[ベクヴェーム] 快適な; ein bequem Atuhl / 座り心地のいい椅子、
bequeme Kleidung / 着やすい衣服
setzen sich⁴+ 方向:~に座る;Anke setzt sich auf den Stuhl. / アンケは椅子に座る.
「座っている」という状態を言う場合は「sitzen」を用いる.
schlug:(過去形) <schlagen
schlug ein Bein über das andere: