への次郎が行く

カメラと地図を片手に気ままに出かけます。

寅さんと蒸気機関車(第3作)

2022年03月04日 | 寅さん

 

映画『男はつらいよ』には、鉄道に関するシーンが多いです。もともと寅さんはフーテンだから、一か所に長く腰を落ち着けることはなく、商売のために西に東に移動します。長い距離を移動する庶民の足といえば、昭和のあの頃は、鉄道でしょう。フーテンが主役の映画、鉄道はアイテムとして欠かせませんでした。

 

初期の作品には、姿を消しつつあった蒸気機関車もよく出てきます。蒸気機関車が出てくる作品といえば、なんといっても『第5作望郷篇(1970年8月公開)』です。ただその2作前の『第3作フーテンの寅(1970年1月公開)』でも、蒸気機関車の迫力あるシーンがあります。今回は、寅福さんたち先達のロケ情報を参考に、第3作に登場する中央西線に行って来ました。

 

映画が始まると、木曽節の歌が流れるなか、蒸気機関車が力強く走るシーンが映し出されます。この姿、蒸気機関車は間違いなくD51型です。

ヘッドライトのすぐ後ろの煙突部分に、トンネルを走る際に煙が運転席にこないように誘導する集煙装置が少し見えます。この集煙装置、先が角っぽいので、長野式集煙装置です。中央西線のD51には、この独特の形をした長野式集煙装置がつけられていました。

 

つづいて落合川に架かった落合川橋梁をD51が渡る映像が流れます。背後の山は、日本百名山の恵那山です。このD51、炭水車に増炭板がついています。当時、中央西線を走ったD51には増炭板が取り付けられていて、石炭を山もりにもって走っていました。

この映像、先達によると落合川駅近くの村瀬橋あたりで撮影されたそうです。よく見ると鉄橋の向こうで何か工事が行われています。当時、中津川・落合川間では、複線化が進められていたから、それ関連の工事でしょう。

 

現在

恵那山の前に高圧電線の鉄塔が立ち、鉄橋の上には架線が引っ張ってあります。やたら電線が目立つ光景になっています。右側に見える建物は、当時もあった生コン工場の塔です。

 

つぎは、場面が中央西線の奈良井駅付近にかわります。寅さんが宿泊した奈良井宿の旅館ゑちご屋の脇を、蒸気機関車が客車を引っ張って通り過ぎます。

蒸気機関車は映っていませんが、これはD51です。当時、中央西線に投入された蒸気機関車はD51とC12でしたが、このあたりの本線を走っていたのはD51のみだったからです。

 

つづいて映像にタイトルが映し出されたあと、上り坂をD51が力強く白煙をはきながら迫ってきます。

ヘッドライトの後ろに、集煙装置が見えます。集煙装置の真ん中、その上、左上、右上に白いものが見えます。長野式集煙装置は前面が開口部になっていて、そこから後方がちらちら見えたようです。白く見えるのは、煙突から出た煙でしょう。撮影場所はわかりませんが、中央西線には急こう配が多く、こういう光景はよく撮影できました。

 

つぎは雪の中を疾走するD51です。ヘッドライトの後方に集煙装置が見えます。

しかしこの集煙装置、前方が角型ではなく、丸みを帯びています。さらに前面がふさがれていて、開口部がありません。これは長野式集煙装置ではありません。ロケが行われた頃、中央西線のD51には、長野式集煙装置がつけられていました。なのでこの場面、中央西線以外で撮影されたものと思われます(ごく短期間、ここに在籍したD51-707は非長野式集煙装置を取り付けていましたが、このD51は707号機ではありません)。

 

川の左岸を蒸気機関車が貨物列車をけん引し、向こうに走って行きます。

この線路が中央西線なのか、蒸気機関車がD51なのか、この映像からはわかりません。

 

川の右岸の少し上を蒸気機関車がこちらに向かって走ってきます。先達によると、この場面は、さきほど出てきた村瀬橋の付近で撮影されたそうです。

映像をよく見ると、蒸気機関車は後方から貨物列車を押しています。調べてみると、撮影当時、中津川以北はまだ非電化区間で、貨物は蒸気機関車がけん引していました。中津川駅と落合川駅間には落合峠があって、これを越えるために貨物列車の後ろを蒸気機関車が押していました。下り貨物はC12が押すこともありましたが、上りはD51のみだったようです。ですからここに映っているのは、D51ですね。

この映像のど真ん中、よく見ると吊り橋が映っています。調べたら、弁天橋といいます。この橋はその後架け替えられて、現在の橋となりました。『第44作寅次郎の告白(1991年12月公開)』では、冒頭部分が落合川駅で撮影されましたが、そこに映っていたのは現在の弁天橋でした。

 

現在

左は木曽川。近くに落合川ダムがあり、このあたりの木曽川はダム湖になっています。この道を少し先に進むと、落合川駅があります。左後方の雪を頂く山は中央アルプス、真ん中やや右の高い山は南木曽岳です。

 

第3作では、中津川にある村瀬橋付近の2か所で撮影が行われました。この2か所、非常に近いんですよ。地図を見てください。

水色は木曽川にできたダム湖。オレンジ色の線は村瀬橋、ブルーの線は中央西線の落合川橋梁です。その右側の鉄橋は、当時はありませんでした。赤い点は、貨物列車を後ろから押すD51を撮影した場所です。

 

では、写真で確認しましょう。

ほら、こんなに近い。吊り橋が村瀬橋。右向こうに落合川橋梁、右奥に恵那山があります。左端の赤い点は、貨物列車を後ろから押すD51を撮影した場所です

 

この場所から、上流方向にカメラを振ってみましょう。

木曽川です。ダム湖になっています。左奥に現在の弁天橋が架かっています。落合川駅は、その右。竹やぶの下に、少しだけ駅舎が見えます。中央西線は右方向、すなわち中津川駅に向かって伸びています。