さいきんの流星光
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8月24日(月曜日)

この日、僕は、かねてから計画していた居酒屋一○での飲みを実行にうつした。



当初は、一人の飲むつもりだったのだが、前日になって急きょ不安になった。

やはり一人で飲みというのは間がもたないのではないか、
何をしながら飲めばいいのか、という話だ。

実をいうと「一人○○」は、僕は初めてではない。

「一人焼肉」は二度ほど経験があって、一人だから寂しいとか、わびしいとか、間が持たないとかいうことはなかった。

むしろ、一人であるという贅沢感と自由感にひたることができた有意義な時間であって、何度でも行きたいと思った。

だが「一人居酒屋」は、僕にとって初めての経験で、未知の領域へ踏み込む不安があった。

前日、弱腰になった僕は、僕は弟に誘いのメールを出している。

一人居酒屋ではなく、二人で飲むことにしようとしたのだ。

幸い、と言うべきかわからないが、弟には、他に約束があるからと断られた。

僕は、計画通り「一人居酒屋」を決行することになった。


当日。

僕は、三鷹駅に降り立った。

僕の住む西荻窪駅からは、ほんの二駅。

駅前の再開発がなされてから、僕は何度か三鷹駅には来ているが、
駅を出て、以前何度も通っていた予備校・大学と一緒だったHくんの家の方角へ向かって歩くのは、かなり久しぶりだった。

三鷹オスカーという古い映画館は、とうの昔になくなっていたし、角の古いタバコ屋さんは、マクドナルドになっていた。

まったく知らない街を初めて歩く旅行者のように、僕は1階にはいっている店舗とその上に立つビルや看板をながめながら歩いた。

ビルの2階にある居酒屋○休は、すぐ見つけることができた。

店に入って、一人であると告げると、左奥にある「一人客用カウンター」に案内された。

一人用カウンターのあるスペースは、本当に店内の左奥の突当りにあり、トイレの真ん前に位置していた。

そこだけが、一つの個室であるかのようなニュアンスがあり、6人ほどが並んで座れる長いテーブルが窓に向かって置かれていた。

僕が店員さんに案内されて近づいた時、3人ほどの一人客が窓に向かって座って飲んでいた。

全員が一人客であるため、誰も口をきかず、それぞれがヘッドフォンステレオで何かを聴いたり、手元にある何かを読んだりしていた。

視線を上げれば目の前は窓だったが、窓の外は細い路地を挟んでとなりの商業ビルが迫ってきており、ビルの壁か、電気の光を放つ看板を眺めながら飲むしかない状況であると瞬時にわかった。

居酒屋一○の他の支店にも行ったことがあるが、その店舗の一人客用カウンターは、店員が行きかう通路に設置されていて、わりと明るい空間に開かれている気がした。

しかし、この店舗のそれは、店内の奥の隅っこに追いやられ、半分個室のような空間に他人同士が押し込まれ、どうにも重苦しい雰囲気がただよっていた。

これでは、「一人○○」の贅沢感、自由感を感じるどころではない。

僕は、一瞬固まったが、案内してくれた店員が僕に選択肢を与えてくれた。

「一人客用カウンターか、こちら、になりますけど…」

と地獄の一人客用カウンタースペースの手前にある三人掛けのボックス席を指して言った。

僕は、迷わず、三人掛けのボックスを選択した。

店内のほとんどの席は、4人掛け以上のボックス席だったが、僕が座った3人掛けボックス席は、ビル全体を支える太い柱が壁からせり出している関係上、一人分の席がなくなっているボックス席であった。

とりあえず、生ビールを注文する。

そしてビールが僕に届けられたタイミングで、おつまみを注文した。

・シーザーサラダ
・サーモンユッケ
・串焼き5本盛合せ
・山盛りまぐろぶつ切り



先日、弟と一休で飲んだ時に頼んだメニューである。
だが、食べ始めて気づいた。
今日は、一人なのだ。

頼んだおつまみは、すべて自分で処理しなくてはならなかった。
2人で来た時の倍の量食べなくてはならない。

僕は、すべての料理が一人で食べるには多いと感じた。
2人で来て、半分ずつ食べるくらいが丁度いい。

しかし、美味いので、僕はどんどん飲んで食べた。


さて、僕が、何をしながら飲み食いしたかという点だが、

実は何もしなかった。

手持ちぶさたにならないよう準備はしていったのだ。
読みかけの小説を1冊と、アイディアをまとめるためのノートとボールペン。
そして、西荻窪駅前の書店で購入した3冊の文庫本もバッグの中に入っていた。

だが、なぜかそれらを出して時間を潰せなかった。

居酒屋で、そういう行為をするのが、とても気が引けた。

あるいは、一人客用カウンタースペースであれば、遠慮なく文庫本を開いて読書に没頭できたのかもしれない。

だが、僕は、居酒屋に一人で来て文庫本を読みながら飲んでいる姿を、他のお客さんや店員に見せてはいけない気がした。

それなら、だまって、食べて飲む、それが正解な気がした。


僕が、バッグの中から時間潰し用アイテムを何も出さなかったのにはもう一つ理由があった。

となりのボックスで飲んでいた3人の初老の男たちの話を聴いていたからだ。

3人は、年齢にしては、よく通る声で発音もしっかりしていた。

話の内容から、劇団関係者であることがわかった。

役者であり、声の仕事もしているようだった。

話の途中、何人か僕の知っている有名俳優の名前も出てきた。

そして、現在の状況や、やりづらい現場、若いディレクターやプロデューサーとのー仕事のやりづらさなどを語った。

僕は、そちらの業界には明るくないので、興味深くその話に聞き耳を立てていたのだ。



僕は、ビールを何杯もおかわりしながら、おつまみ第二弾を注文した。

・ゴーヤチャンプルー
・ホッケ塩焼き
・冷奴



美味い。

しかし、だんだん腹が苦しくなってきた。

胃袋の空きスペースが、かなり不安だった。

食べもの以外に、ビールも流し込まなければならない。


最後の注文をした。

・ねぎ串
・たまご焼き



もう入らない。

僕は、ジョッキにビール半分ほど残し、会計に立った。


生ビールは、合計7杯飲んだ。

会計は、3952円。


居酒屋一○では、ほとんど毎日にようにサービスデーが設定されている。

月曜日は、飲み物、おつまみ、オール半額デーなのである。

これだけ飲んで食って、4千円は安い。



しかし僕は、いったい何をしに来たのか…。

いくらでも食べて飲んでいいと言われて、胃袋に際限なく詰め込む、

その行為に虚無感を感じた一日でありました。

大量に食べること、僕は、このこと自体には、あまり喜びを見いだせないと感じました。
次回からは、なにかしら話題になったもの、誰かが紹介していたものをターゲットにして、飲み食いしたいと思います。


ありがとうございました!






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