ブイーン、ブイーン、ブイーン
鐘の音がうるさいからバイブモードに切り替えた
そろそろ次の精霊が来る頃だ
「今日は精霊はどこから来るのだろうか、裏口からかな」
「もう来てるよ、君の目の前だ」
「び、び、びっくりしたなもー、
そんな黒いタートルネック着てるから
暗闇じゃ気がつかないじゃないか
ひょ、ひょ、ひょっとしてジョブズさんの精霊ですか!」
「そうだ、ジョブズだ、就職情報誌じゃないぞ
スティーブ・ジョブズの精霊だ」
「何しに来たんですか、iPhone5の宣伝ですか
この世じゃまだ売ってないですよ
4Sとか中途半端な物出しやがって
みんなあんたの責任だ」
「まだ5を出してないのか、あっちの世界じゃみんなiPhone5を使ってるぞ
君はアンドロイドなのか、なぜiPhoneを使わないんだ
iPhoneは現在の世界を変えた最高の発明だぞ」
「僕はアンドロイドだからね、iPhoneは使わないよ
ストラップを付ける穴が付いたら今度買ってやるよ」
「八田さん、世界は今しか無いんだよ
今、現在がやがて過去になり、未来になる
今出来ることを今やっておかないと未来も過去も生まれないんだ
ストラップの穴が付いたらiPhoneを買うだって、馬鹿か、日本人は腐った魚だ
今買え!インターネットからアップルストアで今注文しろ!
穴なんて自分でドリルで開けろ
未来に穴を開けるのは自分自身なんだぞ
iPhoneがオンラインで買えないならiPadかiPodかMacを買っておけ
iPhoneは明日ソフトバンクかauで買え
とにかくアンドロイドは今すぐやめろ
アンドロイドとiPhoneとどっちが人間かよく考えろ
じゃあな、明日は次の精霊が来る」
「どっちも人間じゃないし」
ジョブズの精霊は最後にちょっと笑いながら暗闇に消えていった
えらく商売熱心だったけど僕はあんたが好きだった
あんたがいたから今生きてるんだと思うよ
僕はこれからも林檎をかじって歯茎から血を流しながら
入れ歯をガタガタ震わせながら
あんたの事を思い出すよ
ジョブズさんありがとう
テーブルにはジョブズが一口かじった林檎が残されていた
「この林檎でクリスマス用のアップルタルトでも作るとするか」
今までお菓子も料理も作ったことのなかった八田二郎は
夢見るように万年床で眠りについた