「八郎君、居候の俺は確かに、君の家族に迷惑をかけた
一日中押入れに閉じこもっていたり、屋根の上にいたり、
日本中の小学校の教科書を全部買ってきてその重さで部屋の床が抜けたり
ピンクのドテラは君の母さんに燃やされた
でも、わかってほしかったんだ
『この世にはそうじゃない世界がある』ってことをね
だから、装甲車のタクシーを呼んだんだよ」
「いや、十分わかってますよ
又三郎おじさんのおかげでウェスモンゴメリーのギター奏法も覚えたし
Fコードの人差指も押さえられたし、白土三平のカムイ伝も読破できたし
自転車にも乗れたし、サーターアンダギーも食べられた」
「でもな、『そうじゃない世界』に長く居ると国民年金ももらえないし
君は上場企業のサラリーマンになって定年までがんばって
少なくても厚生年金をもらうべきだよ
それが安定安心というものだよ」
「でも、あの頃、又三郎おじさんと村上春樹さんの頭上には
同じ風が吹いていたんでしょ、春樹さんとの距離は
わずか数百メートルの差だったと言うじゃありませんか」
又三郎おじさんは何も答えず芦屋浜にたたずみ
松林からのヒグラシの声を聞いていた
夙川の空の色は青の彩度が増して
季節はゆっくりと夏にさよならをしていた
一日中押入れに閉じこもっていたり、屋根の上にいたり、
日本中の小学校の教科書を全部買ってきてその重さで部屋の床が抜けたり
ピンクのドテラは君の母さんに燃やされた
でも、わかってほしかったんだ
『この世にはそうじゃない世界がある』ってことをね
だから、装甲車のタクシーを呼んだんだよ」
「いや、十分わかってますよ
又三郎おじさんのおかげでウェスモンゴメリーのギター奏法も覚えたし
Fコードの人差指も押さえられたし、白土三平のカムイ伝も読破できたし
自転車にも乗れたし、サーターアンダギーも食べられた」
「でもな、『そうじゃない世界』に長く居ると国民年金ももらえないし
君は上場企業のサラリーマンになって定年までがんばって
少なくても厚生年金をもらうべきだよ
それが安定安心というものだよ」
「でも、あの頃、又三郎おじさんと村上春樹さんの頭上には
同じ風が吹いていたんでしょ、春樹さんとの距離は
わずか数百メートルの差だったと言うじゃありませんか」
又三郎おじさんは何も答えず芦屋浜にたたずみ
松林からのヒグラシの声を聞いていた
夙川の空の色は青の彩度が増して
季節はゆっくりと夏にさよならをしていた