■ 13・67/陳浩基 2018.5.14
2018年版 このミステリーがすごい!
海外篇 第2位 13・67
『13・67』 は、こんなミステリです。
私はひとつの方法を考え出した。それは、六つの独立した中編の「本格派」推理小説を描くことで、その謎とトリックを解く醍醐味を強調して描き、同時に、六つの物語をつなげばそこに、完全な社会の縮図が見えてくるような試みをした。つまり言い換えれば、私はミクロ的には本格派の、マクロ的には社会派の作品を書いたことになる。 (「著者あとがき」より)
タイトルは中国語版も同じ『13・67』----つまり二〇一三年と一九六七年を指した数字で、著者は本書に収録された六編の連作中編小説で、六つのストーリーと時間をつなぎ、ひとりの警察官の人生と香港という都市のおよそ半世紀の変化を描ききった。まさに香港史に残る傑作小説である。 (「訳者あとがき」より)
主人公は、こんな警察官です。
みなが職務より組織内政治を優先するようになっても、クワンは信念を変えず、全力で、自分の心に刻まれた正義と公正を守ってきた。警察官の使命は犯人を逮捕し、善良な市民を守り、真実をあきらかにすること……。しかし警察制度と組織が、悪者を法のもとに裁けず、真実を闇に葬ったまま、罪なき人の悲鳴に耳を閉ざすようになったとき、クワンは、たとえそれが限りなく黒に近いグレーの沼であっても、その身をなげうって飛び込んでいった----その人の道をもって、その人を治める----敵と同じ土俵に立たなければ、敵は倒せないのだ。
中国人は香港人をずるい守銭奴だと思い、香港人は中国人が無知でがさつだと感じている。どちらも同じような狭窄な視野が産んだ固定観念だった。
「別れたら、もう忘れるんだ。振り返れば、自分がつらいだけだ。エレンの決断が間違いだったとしてもそれは彼女自身の責任だ。お前がなにを言っても、彼女は聞かないし、また彼女の考えを変える権利はお前にはない。もし自分が彼女の友達だと思うなら、彼女が孤立無援になったときに支えてやればいい。自分の価値観を相手に強要してはならない。恋する女は盲目だ。言えば言うほど、強情になる。」
そうは言われても、なかなか思い切れません。
未練が、不幸を招くのは分かっているのですが、........
権力とはいつもそういうものだ。上位にあるものは理想や信念、さらに金銭をダシにして、下位にあるものの命を犠牲にさせる。人は別に偉大なる目的があって生きるのではない。ただ、穏やかな生活をしたいだけなのだ。そこにつけこみ、甘い誘いをかければ、いとも簡単に下僕になってしまう。......と。しかし私には、彼らのような端役は、すぐ忘れられる存在だとわかっていた。いいときだけ持ち上げられ、状況が悪くなれば見捨てられるのは古今不変の道理であった。
この歳まで生きてみると、確かに「ただ、穏やかな生活をしたいだけなのだ。」という、この言葉、身に染みますねえ。
「現実とはつまるところ俗なものだ。状況証拠はいくつもある」
証拠がなければ、仮説は永遠に仮説のままだ。
「手抜きは努力に勝る」
「歳月は人を待たず。そして人もまた歳月に流されていく。」
「礼には礼を返す」
『先に手を出すはなべて悪。殺されてもうらむなかれ』
なかなか味わい深い文が随所にちりばめられています。
ごくごく一部を書き出してみました。メモを取っていたのですがたくさんすぎて、途中で止めました。
このミステリは、上下2段組で、p480です。
気合いを入れて取り組みましょう。
『 13・67/陳浩基/天野健太郎訳/文藝春秋』