ゆめ未来     

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“噂が身を滅ぼすこともある”

2020年11月17日 | もう一冊読んでみた
噂 殺人者のひそむ町/レスリー・カラ    2020.11.17    

 最後に、サリー・マクゴワンゴの告白を読んだとき、ニーチェの言葉の深い意味を知った気がしました。

 “怪物と戦う者は、その戦いの過程でみずからが怪物とならぬよう用心しなければならない。
 底知れぬ深淵を長らくのぞき込めば、そのあいだ深淵もこちらをのぞき込んでいるいるのだ”


レスリー・カラの 『』 を読みました。
皆さん、一気読みの面白さだと言われるのも分かります。
面白かった。

でも、ぼくは主人公のジョアンナが好きになれない。
自分がそれとなく広めた 「噂」。
噂を広めた理由をいろいろと言い訳をするのが気に入らない。それも一度ならず。
数あるミステリーのなかには、こんなこともあります。


 これがこの仕事を気に入っている点----つねに新たな人と出会うこと。その人が見せてくれる一面から本当はどういう人物かを推測すること。それに、売家の内覧は、まちがいなくこの仕事の醍醐味。旧友のひとりタッシュは、それはあなたが詮索好きだからよって言う。でも、気にしない。タッシュも同類だから。

 ある心理学者が真理の錯誤効果に言及した。その効果により、どんな話も繰り返すうちにだんだん信じられるものになるという。噂と同じだと思った。要するに、被保護者保護プログラム下に置かれた人間は最終的に自分の作り話を信じるようになり、過去の生活がますます現実とは思えなくなる、ということ。

 これまで読んだ記事のひとつに、作家でジャーナリストのあるロシア人の言葉が紹介されていた。いわく、人を追いつめることに関して英国のタブロイド紙はソ連国家保全委員会以上である。

 うんざりしたような日配せを送ってくるので、わたしは同感の笑みを返した。リズとは心のつながりを感じる。わたしは昔から年上の女性たちと友情を築いてきた。ありのままの自分を心地よく受け入れている女たちと。おそれることなく堂々とありのままの自分でいる女たちと。
 ひとつ確かなことがある。読書会に参加することを勧めてくれた母は正解だった。これぞ、わたしが求めていたもの。


 「状況がちがっていたらと考えることもある。あの日、外へ遊びに行かなければ。あん
なにおそろしいゲームを思いつかなければ。あの連棟住宅のなかの家と同様に、あの家も取り壊されていれば。あの家がどういうわけか解体用の鉄球を逃れたりしてなければ。あのひきだしを開けるなんてよけいなまねをしてキッチンナイフを見つけてなければ。それを手に取る勇気がなければ。もしもの話は山ほどある。人生における重要な瞬間は、ほんの一瞬に下される選択で決まる。その選択が一生を決める」
 母は頭を膝に伏せた。ようやく身を起こすと、おそらく初めてマリーの目をまっすぐに見た。


 「きみたちの正体をカレンに明かして危険にさちしたくなかったんだが、きみとお母さんが命の危機に瀕しているかもしれないと言うと、カレンは察した。すぐに察したんだ。例の噂を最初に母親に伝えたのはカレンだった」
 わたしは目を閉じて、それについて考えた。つまり、読書会でわたしがあの噂を話したことがすべての発端だったわけね。


 「だれの魂にも闇はある」彼女は言った。

    『 噂 殺人者のひそむ町/レスリー・カラ/北野寿美枝訳/集英社文庫 』
コメント
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