■名探偵のはらわた 2023.6.26
白井智之さんの作品は、今までに4冊読みました。
今回の『名探偵のはらわた』で、5冊目です。
名探偵のいけにえ
人間の顔は食べづらい
東京結合人間
おやすみ人面瘡
kadobun
「特殊な舞台設定や破天荒かつ不道徳な世界観を表現する作品が多くバラバラ殺人........」
「綾辻行人さんから「鬼畜系特殊設定パズラー」という称号も授けられた鬼才.........」
なるほど、なるほど。納得。
「みよ子が地元を嫌ってるのは、親がヤクザだから?」
「それもある。はらわた、今まで黙っててごめん」
みよ子が頭を下げると、傷んだ前髪が一つ、醤油皿に落ちた。
はらわたというのは原田亘の渾名だ。
「謝ることじゃないよ。おれの親だってろくなもんじゃないし」
亘はどうしようもない場合を除いて、暴力から距離を置いてきた。人は暴力に晒され続けると、痛みの感覚が麻痺してしまう。そうなったら終わりだ。うまく生きるには、うまく逃げるのが一番だ。
現世で悪事をなした者たちは、死後、地獄へ落ちる。だが特異悪事をなし、人々を苦しめた者は、閻王に選ばれ、鬼として務めを果たすよう命じられることがある。これが人鬼だ。
もしも召儺(おにやらい)により古城倫道が生き返ったとすれば、古城が死後、人鬼となっていたことになる。
だが数々の凶悪犯罪の真相を明かし、人々の平穏な暮らしを守った名探偵が、地獄に落ちるはずがない。この男の正体は、古城倫道を騙る偽者だ。
「ちょっと待て。おれは死人だが鬼じゃない。他のやつらとはわけが違うんだ」
男は両手を突き出して亘と距離を取ると、ふたたびシャツを捲り上げた。腹のミミズ腫れが露わになる。
「おれは召儺で甦ったんじゃない。これが証拠だ」
亘は妙につるんとした傷跡を見つめた。
八十年後。今回の召儺は閻王も寝耳に水だった。地獄ってとこは昔から人手不足でね。鬼が減ったところに大量の死人が送られたら霊魂が収まらなくなっちまう。そこで閻王は鬼退治のためにおれを甦らせたんだ」
召儺の儀式で迷惑を被ったのは、こちらの世界の人間だけではなかったということか。
「どうしてあなたが選ぱれたんですか」
「違う。選ばせたんだ。甦った人鬼の中に、八十年前におれを殺そうとした狼藉者がいてね。あいつだけ生き返ったんじや腹の虫が治まらねえ。おれが人鬼どもをまとめて地獄へ送り返してやるから、代わりに現世へ生き返らせろって閻王に持ち掛けたんだ。人鬼といっても生前はただの犯罪者に過ぎない。日本一の探偵の手にかかれば、見つけ出すのは朝飯前だ。閻王は人鬼の行方が分からず途方に幕れていたから、おれの提案に乗るしかなかった」
「地獄へ送り返すって、どうやるんです」
「簡単さ。ぶち殺すんだよ。魂は鬼でも身体は人間だ。息の根を止めれば死ぬ」
男は自分の首に手を回すと、白目を剥いて舌を出した。浦野は何度生まれ変わってもこんな仕草はしないはずだ。
『 名探偵のはらわた/白井智之/新潮社 』
白井智之さんの作品は、今までに4冊読みました。
今回の『名探偵のはらわた』で、5冊目です。
名探偵のいけにえ
人間の顔は食べづらい
東京結合人間
おやすみ人面瘡
kadobun
「特殊な舞台設定や破天荒かつ不道徳な世界観を表現する作品が多くバラバラ殺人........」
「綾辻行人さんから「鬼畜系特殊設定パズラー」という称号も授けられた鬼才.........」
なるほど、なるほど。納得。
「みよ子が地元を嫌ってるのは、親がヤクザだから?」
「それもある。はらわた、今まで黙っててごめん」
みよ子が頭を下げると、傷んだ前髪が一つ、醤油皿に落ちた。
はらわたというのは原田亘の渾名だ。
「謝ることじゃないよ。おれの親だってろくなもんじゃないし」
亘はどうしようもない場合を除いて、暴力から距離を置いてきた。人は暴力に晒され続けると、痛みの感覚が麻痺してしまう。そうなったら終わりだ。うまく生きるには、うまく逃げるのが一番だ。
現世で悪事をなした者たちは、死後、地獄へ落ちる。だが特異悪事をなし、人々を苦しめた者は、閻王に選ばれ、鬼として務めを果たすよう命じられることがある。これが人鬼だ。
もしも召儺(おにやらい)により古城倫道が生き返ったとすれば、古城が死後、人鬼となっていたことになる。
だが数々の凶悪犯罪の真相を明かし、人々の平穏な暮らしを守った名探偵が、地獄に落ちるはずがない。この男の正体は、古城倫道を騙る偽者だ。
「ちょっと待て。おれは死人だが鬼じゃない。他のやつらとはわけが違うんだ」
男は両手を突き出して亘と距離を取ると、ふたたびシャツを捲り上げた。腹のミミズ腫れが露わになる。
「おれは召儺で甦ったんじゃない。これが証拠だ」
亘は妙につるんとした傷跡を見つめた。
八十年後。今回の召儺は閻王も寝耳に水だった。地獄ってとこは昔から人手不足でね。鬼が減ったところに大量の死人が送られたら霊魂が収まらなくなっちまう。そこで閻王は鬼退治のためにおれを甦らせたんだ」
召儺の儀式で迷惑を被ったのは、こちらの世界の人間だけではなかったということか。
「どうしてあなたが選ぱれたんですか」
「違う。選ばせたんだ。甦った人鬼の中に、八十年前におれを殺そうとした狼藉者がいてね。あいつだけ生き返ったんじや腹の虫が治まらねえ。おれが人鬼どもをまとめて地獄へ送り返してやるから、代わりに現世へ生き返らせろって閻王に持ち掛けたんだ。人鬼といっても生前はただの犯罪者に過ぎない。日本一の探偵の手にかかれば、見つけ出すのは朝飯前だ。閻王は人鬼の行方が分からず途方に幕れていたから、おれの提案に乗るしかなかった」
「地獄へ送り返すって、どうやるんです」
「簡単さ。ぶち殺すんだよ。魂は鬼でも身体は人間だ。息の根を止めれば死ぬ」
男は自分の首に手を回すと、白目を剥いて舌を出した。浦野は何度生まれ変わってもこんな仕草はしないはずだ。
『 名探偵のはらわた/白井智之/新潮社 』
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます