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地図と拳/小川哲

2023年02月27日 | もう一冊読んでみた
地図と拳 2023.2.27

第168回 直木賞受賞作 
このミステリーがすごい! 2023年版 国内編9位 
地図と拳/小川哲荒/集英社


満州国建国の話です。
夢と希望、国民の幸福と繁栄を願っての建国。
しかし、その土地に昔から住んでいた人々には別の景色が見えた。



 「恐怖が心を満たしたときに、人間が取る行動は三つだ」
 もうずいぶん前の話だ。兵役で教練を受けたとき、上官からそう言われた。
 「戦うか、逃げるか、動けなくなるか。戦う者は勇敢だ。逃げる者は臆病だ」
 その言葉の続きは覚えていなかった。今はじめて、続きが知りたいと思った。


 「国家は都市を持つ。これまで、鉄道はそれらの都市と都市を繋いできた。だが、そんな時代はもう終わった」
 それまで黙っていたウィッテ大臣が口を開いた。「これからは、鉄道が都市を作る時代だ。まず駅を建て、その周辺が都市になるのだ。
我々は、シベリア鉄道を満洲に通すことにした。まだ満洲には森と荒野しかない。そこに線路を敷き、朝鮮まで支線を延ばす。すでに極東の海運はイギリスに握られてしまっている。日本やドイツ、フランスは、清の陸運を握ろうと必死になっている。先手を打たなければ、ロシアは極東の利権をすべて失うことになる。我々は鉄道を使って都市を作る。区画を整備し、人々を集める。君たちの作った地図から路線が選ばれることを忘れないでほしい。鉄道が都市を作るのであれば、その鉄道を作るのが地図だ。つまり、君たちの作った地図が都市を生むのだ」


 「地図の話をしたかっただけです。こうして地図にこだわるのは、僕が国家とはすなわち地図であると考えているからです。国家とは法であり、為政者であり、国民の総体であり理想や理念であり、歴史や文化でもあります。ですがどれも抽象的なもので、本来形のないものです。
その国家が唯一形となって現れるのは、地図が記されたときです。大日本帝国はこの何十年かで形を変えてきました。台湾を手に入れ、朝鮮を手に入れました。満州を手に入れようとして、少々困ったことになっています。日本という国家の歩みは、更新されてきた地図の歩みでもあります。僕は日本が、そして世界が、どのように地図を変えていくのかを知りたいのです」
 国家とはすなわち地図である。


 最後の授業を担当したのは明男の父だった。満鉄の仙桃城工事事務所、工務科長である明男の父は、授業の終わりに「君たちの後ろには、過去という名の一本道がある」と言った。「君たちの前には、未来という名の交差点がある。人間は常に直進するとは限らない。右折をしたら誰が待っているか。左折をしたらどこにたどり着くか。未来という白紙の地図を存分に旅して、その景色を可能な限り正確に描いてほしい」

  『 地図と拳/小川哲荒/集英社 』




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