「火宵の月」「薄桜鬼」二次小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
仁が両性具有です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。
「あれまぁ、豪華な駕籠だねぇ。」
「何処のお嬢様の物だろうね?」
道行く人々がそんな事を言い合いながら、土御門家の駕籠を見つめていると、中から白無垢姿の仁が出て来た。
「何て綺麗な花嫁さんだろうねぇ。」
「幸せにおなりよ~!」
仁は、三木家の正門に入る前、通行人達に向かって一礼した。
「直助様、花嫁様がご到着されましたよ!」
「わかった、すぐ行く。」
自室で囲碁を打っていた三木家嫡男・直助は、女中の言葉を聞いた後、仁が待つ広間へと向かった。
「おぉ、やっと来たか。遅かったな。」
直助の父・直高は、そう言うと直助を睨んだ。
「申し訳ありません、囲碁を打っている内に遅くなってしまいました。」
そう言った直助は、改めて仁を見た。
渡帽子の下に隠された、切れ長の碧みがかった黒い瞳に見つめられた直助は、股間が熱く脈打つのを感じた。
直助と仁の祝言は滞りなく終わった。
「仁様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ・・」
そう言って自分の髪を梳いてくれている乳母を安心させようとしたが、仁の笑顔は少しひきつっていた。
直助は、悪い噂が絶えないでいた。
皿を一枚割った女中をその場で手討ちにしたり、遊郭で遊女に乱暴狼藉で働いたりと、その噂を聞いた雛が三木家への嫁入りを渋ったのは当然といえば当然だった。
「仁様、若様がお見えになりました。」
「では仁様、わたくしはこれで。」
乳母が部屋から出て行くのと入れ違いに、直助が入って来た。
「顔を上げよ。」
「はい・・」
仁が俯いていた顔を上げると、そこには目を爛々と輝かせる直助が立っていた。
「あの・・」
「まぁ、やはり似ているなぁ、有匡様と。」
「父上と、ご存知なのですか?」
「ええ。雛様との縁談が来た時、わたしは正直嬉しくもあり、残念だと感じました。」
「残念?」
「わたしはずっと・・有匡様をお慕い申し上げておりました。」
「父を?」
「有匡様はわたしの事を憶えていらっしゃらないのかもしれませんが、わたしは“あの日”、有匡様に心を奪われました。」
直助はそう言うと、有匡と初めて会った日の事を仁に話し始めた。
その日、直助はいつものように私塾内にある道場で稽古をして汗を流していた。
その時、道場に一人の男が入って来た。
長身を紺の道着に包み、黒く艶やかな髪を髷に結った彼の美しい容姿を一目見た瞬間、直助は全身を雷に打たれたかのような衝撃に襲われた。
男―有匡は、直助と目が合うと、優しく微笑んでくれた。
「いつか、わたしは有匡様と所帯を持ちたいと思っておりました。しかし、有匡様は既に妻帯されていた・・ならば、雛様と結婚し、有匡様との繋がりを持とうと思っていたのですが・・嫁いできたのが、あなたでよかった。」
そう言った直助の目は、濁っていた。
彼は仁を褥の上に押し倒すと、乱暴に仁の夜着を剥ぎ取った。
「いやっ!」
「ほぉ、あなたは“そういう”身体なのですね。」
「わたしを、どうするつもりなのですか?」
「あなたには、わたしの子を産んで貰います。」
直助は、仁を何の気遣いも優しさもなく乱暴に抱いた。
「仁様、大丈夫ですか?」
「うん・・」
直助に抱かれた後、身体の中心に熱く焼けた金属の楔を打ち込まれたかのような激痛に数日間仁は苛まれ、寝込んだ。
「父上達には、言わないで。」
「わかりました。」
仁の乳母・あやは、そう言うと仁の部屋の前から辞した。
そこへ、直助がやって来た。
「仁様は?」
「お部屋で、お休みなっておられます。」
「そうか。」
直助はそう言うと、勝手に仁の部屋へと入って来た。
「直助様、何を・・」
「わたしの子を孕みなさい。」
「嫌だ、やめて!」
仁は抵抗したが、直助に顔を拳で殴られた。
「お前は、黙ってわたしに従えばいいんだ!」
直助は、仁を虐待した。
はじめは抵抗していた仁だったが、次第に直助に対して恐怖心を抱くようになり、抵抗する事もなくなった。
そんなある日、一人の青年が三木家を訪れた。
「もし、直助殿はご在宅でいらっしゃいますか?」
「直助様は、留守にしております。ご用件ならば、わたくしがお伺い致します。」
「仁・・お前、仁なのか!?」
「え?」
仁が俯いていた顔を上げると、そこには自分のかつての道場仲間だった、蔵本祐馬の姿があった。
「祐馬、祐馬なのか!?」
仁はそう言うと、暗く沈んでいた顔をパァッと輝かせた。
「いやぁ~、それにしても驚いたよ。急にお前が道場を辞めて居なくなったと思ったら、三木家に嫁入りしていたなんてなぁ!」
「ごめんね、急な事だったから挨拶も何も出来なくて。道場の皆は元気にしている?」
「あぁ、皆元気にしているよ。それよりも仁、暫く会わない内に雰囲気変わったな?」
「そう?」
「うん、何か上手く言えないけれど、綺麗になったなと・・」
「え?」
「仁、何か辛い事があったら、俺に・・」
「そこで何をしている?」
突然背後から冷たい声が聞こえて二人が振り向くと、そこには怒りで滾った目を自分達に向けている直助の姿があった。
「直助様、お帰りなさいませ!」
そう言った仁の声が、少し震えている事に気づいた。
「二人で何をしていた?」
「少し、昔話をしていただけです。」
「そうか。」
直助はそう言って笑ったが、目は全く笑っていなかった。
「祐馬、会えて良かった。」
「あぁ・・」
その夜、祐馬との浮気を疑われ、仁は直助から激しい暴力を受けていた。
「違います、わたしは何も・・」
「嘘を吐け!」
直助はそう叫ぶと、仁の首を絞めた。
酸素を求めて仁が苦しそうに喘いでいると、突然血の雨が彼に降り注いだ。
(え?)
仁は、自分の首を絞めていた直助の首がなくなった事に気づいた。
(どうして・・)
慌てて直助の下から這い出た仁は、家の中が妙に静まり返っている事に気づいた。
(一体、何が・・)
仁が自分の状況を確認しようとした時、あやが部屋に入って来た。
「仁様、お逃げ下さい、賊が・・」
あやはそう叫んだ時、背後から袈裟斬りにされて絶命した。
「居たぞ!」
「逃がすな、捕まえろ!」
仁は後頭部を何者かに殴られ、気絶した。
その直後、三木邸は紅蓮の炎に包まれた。