ワンマッチ興行とはいえ、ダークマッチでは翔太選手とバンジー選手がシングルで激突しました。
STYLE-Eの時とは違い、あくまでもアスリート性を重視するスタイルではやはりキャリアの面でバンジーが一日の長があり、また、明確な目標が出来たせいもあって、バンジーの強さが際立った展開となりました。
「いや、大きな目標ができましたからね。これからはドンドン突っ走らせてもらいますよ」
そう語るバンジーの目は本当にキラキラしていました。
ワンマッチ興行はまさにガチガチのプロレスルールに基づいた闘いとなりました。
元々はルールの曖昧さから始まった事なので、双方の言い分を聞き、ルールを徹底する事から始めました。
お客さんには事前にルールを配布し、オーディエンス全員が審判員という過酷な状況の中での戦いとなります。
それだけに二人とも必要以上のプレッシャーがありました。
試合はまさにクラシカルな攻防が展開され、最近では見ることのできない業の応酬で、見る側の緊張感もこちらに伝わってきました。
試合終了のゴングが鳴ったとき、なべさんは泡を吹いてリングに倒れていました。
そこにいた観客の全てが拍手を送った試合。
多分この試合に異論を持つ人はいないと思います。
加藤さんはいつものマイクパフォーマンスもなく、満足気な顔をして控え室に戻っていきます。
残されたなべさんはといえば、これまた負けはしたものの同じような顔をして会場にいるお客さんにこう叫びました。
「これからは無名でも本当の実力者を相手に闘っていきたいと思います」
お客さんが会場から退出し、自分達も片づけをしていると、前田選手がこちらに近寄ってきました。
「あのさ、加藤達と話したいんだけど、いいかな?」
「あ、いいんじゃないですか」
「そう・・・大丈夫だよ。喧嘩なんかしないから(笑)」
前田選手は微笑みながら加藤さん達の控え室に入っていきます。
その中で何が話されたのかは自分もよく知りません。
ただ、この話し合いが夢名塾の方向性に大きな影響を与えるのです。
試合後、夢名塾スタッフとなべさんは近くのファミレスで反省会。
なべさんは負けたものの、前回とは打って変わって晴れ晴れとした表情
「いやぁ、今回は負けましたね。確かに一言多いですけど、編集人さんの言うとおり彼は本当の実力者ですよ。できたらまた再戦したいですね」
「自分としては複雑なんですけどね」
そこに前田選手がやってきました。
「ちょっといいですか?」
「どうぞどうぞ。前田さんの意見も聞きたいんですよ。今後の夢名塾について是非」
前田さんはちょっと照れ笑いしながら席に座った
「前田さんから見て今日の試合はどうでした?」
「うーん・・・悔しいですよね」
「悔しいですか」
「いや、実にいい試合だったんで。自分が出たかったですよ、譲って損した(笑)」
「そういう意味で悔しいんですか」
「さっきね、加藤さんと話したんですよ」
「ああ、そうですね」
「編集人さん、悪い事は言わないから一度ちゃんと加藤さんと話し合ったほうがいいと思うよ」
「えっ?」
「あなたも含め、夢名塾全部が多分間違った方向に向かおうとしている。加藤さんはそれを物凄く危惧してる」
「どういうことですか」
「自分も8月の時は真意が見えませんでしたけど、今日あれから色々話してなんとなく自分が感じていたものと合致しているんですよ。自分も加藤さんの意見と一部は同じなんですよ」
「できれば具体的に言ってほしいんですけど」
「・・・編集人さんですよね、ナベさんを加藤選手とぶつける企画を立てたのは」
「そうですね」
「その時なんかなべさんを焚きつけたんじゃないですか」
「いや、別に。ただ夢名塾という名前を使う以上、避けては通れないとは言いましたが」
「それです。その言葉が加藤さんを怒らせたんですよ」
「えっ?」
「夢名塾って元々闘いを中心としてやってたはずです。編集人さんはそこに因縁を持ち込もうとしています。それは少なくとも自分の知っている夢名塾のコンセプトではないです。これは自分の意見ですけど、さっき二人の間ではいつか試合をしようと話をつけました。その時は因縁云々は別にしてお互いのプロレス頭をフル回転するような試合をしようと。因縁なんていらないんですよ、夢名塾は」
前田さんは自分達に向かって熱く語ってくれました。
「わかりました。編集人さん、今度頑固プロレスに行って、加藤さんと話し合ってくださいよ。自分も今度の夢の島大会では加藤さんに是非出てもらいたいし、その為には信頼関係を修復しない事には始まりませんものね」
「わかりました。電話では無くて直接会う事にしましょう」
「それと前田さん。次回大会なんですが、当然出てくれますね。そこまで言った以上、前田さんの相手は加藤さんという事になりますけども」
「望むところです」
「ちょうどアンケートにも前田対加藤、前田対戸田が見たいって書いてありますね」
するとなべさんが
「じゃあ年末はこれしかないでしょう。渡辺・前田対加藤・戸田」
「それ安直すぎますって」
そういうと、少しだけ反省会の場が和みました。