>もっとも厳しいのは、スキルを持たない中間管理職
新型コロナウイルスの影響が長期化する可能性が高まっていることから、雇用や賃金への影響が懸念されるようになってきた。現在、日本は空前の低失業率だが、営業自粛などによって仕事を失う人が増えるのはほぼ確実といってよい。一方で、特定業種の人手不足がかなり深刻となっている。コロナの長期化は、人が余っている業種から不足している業種への人材シフトを加速させる結果となるだろう。
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今回のコロナショックによって、全世界的に巨額のGDP(国内総生産)が失われるのはほぼ確実な状況である。事態が刻々と変化しているので、確定的なことは言えないが、自粛要請の対象範囲や、家計の支出動向、企業活動の状況などから総合的に判断すると、4~6月期のGDPは年率換算で20%以上のマイナス、2020年全体でも5~7%程度のマイナス成長となる可能性が高い。仮に5%のマイナス成長だとしても、28兆円近くのGDPが失われる計算になる。
しかも、今回の感染拡大が短期に終息すると見る専門家は少なく、近い将来には別のウイルスによる感染爆発が発生すると指摘する声もある。
戦前には、今回のウイルス感染に近い「スペイン風邪」が大流行し、多くの人が死亡するという出来事があった。スペイン風邪は、1918年から20年にかけて全世界で流行したインフルエンザだが、旧内務省の調査によると、国内では3回のピークがあり、完全な終息までには約3年を要している。
今と比較すると衛生事情などが異なるとはいえ、ワクチンや特効薬が存在していないのは同じであり、人やモノの移動が飛躍的に拡大しているという点では、むしろ環境は悪化している。少なくとも、短期間で完全終息するという見通しは非現実的だろう。
そうなると、大規模な経済の縮小が、来年も継続する可能性があり、企業はそれを前提に経営戦略を立案しなければならない。当然、こうした環境の変化は雇用にも大きな影響を及ぼすことになるはずだ。
今後の雇用について考える際に避けて通ることができないのは、コロナショックの有無にかかわらず、2020年を境に日本型雇用のあり方が激変する可能性が高かったという現実である。
昨年、経団連は2020年の春闘について、終身雇用、新卒一括採用、年功序列を基軸とした、いわゆる日本型雇用の見直しについて、労使交渉の議題にする方針を打ち出していた。経団連が日本型雇用の見直しに言及するというのは、前代未聞のことであり、これは戦後の労使交渉における一大転換点といってよい。
産業界では、日本型雇用がいよいよ崩壊に向けて動き出したとの認識で一致しており、今年は大規模なリストラに乗り出す企業が増加すると予想されていた。こうしたところに発生したのが今回のコロナショックであり、当然のことながら、この動きは雇用制度の転換を促す可能性が高い。
リクルートワークス研究所の調査によると、日本企業の内部では、会社に勤務しているにもかかわらず、実質的に仕事がないという、いわゆる社内失業者が400万人も存在しているという。これは日本の全正社員の1割に達する規模である。
1割の社員を何もさせずに放置しておくというのは、企業経営の常識としてはあり得ないことであり、日本の雇用市場は、ある種の異常事態といってよい。日本企業は諸外国と比較して、生み出す付加価値に対して社員数が多すぎる(つまり、日本企業は労働集約的で生産性が低い)という問題が指摘されているが、1割の社員が仕事をしていなければ、そのような結果になるのも無理はない。
経済界にとってこの状況を改善するのは緊急の課題であり、そのためには、日本型雇用の見直しが避けて通れないというのが共通認識であった。こうした中でやってきたのがコロナショックであり、当然のことながら、感染拡大による業績の悪化は、日本型雇用の見直しを一気に加速させる可能性が高い。
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劇的な人材の流動化
もっとも、日本型雇用が崩壊するといっても、米国などで懸念されているような大量失業という問題は発生しにくいと考えられる。
日本は人口減少に伴う高齢化(若年層人口の比率低下)という構造的要因によって、空前の人出不足が続いている。コロナの影響で人員削減を進める企業が増える可能性が高いが、一方で運送業界など、コロナショックで人手不足がさらに深刻になっている業界もある。
もし人材の流動化が進み、適材適所が実現すれば、人材市場における需要と供給のバランスが極端に崩れることはなく、大量の失業者が街にあふれるということもないだろう。つまり今回のコロナショックは失業を引き起こすのではなく、人材の流動化を加速させる可能性が高い。
だが、大量失業がないとはいえ、終身雇用と年功序列という従来の制度にどっぷりとつかってきたビジネスパーソンにとって、この変化は極めて大きなものとなるだろう。
各企業ではコロナの感染拡大が一段落した段階で、中高年を対象にした希望退職など人員の整理を積極的に進める可能性が高い。一方で、新卒の社員を、ある時点まで一斉に昇進させるという従来型処遇の見直しも進めるだろう。幹部を目指して早い段階から昇進を重ねる一部の社員と、特定のスキルを生かしてずっと現場で活躍する技能型の社員に二極化する可能性が高く、いわゆる欧米でいうところのジョブ型雇用が一般的となる。
今、勤務している企業において、自分のスキルを生かせる仕事があるとは限らないので、転職が活発になり、結果として大規模な雇用の流動化が進むと考えられる。最終的に個人の適正と企業の求人がマッチするまで流動化は続き、しばらくの期間を経て一定の均衡に達することになる。
もっとも厳しいのは、スキルを持たない中間管理職
皮肉な結果だが、企業が抱える社員数が適正化されれば、経営陣は過剰な人件費に悩まされなくなるので、平均賃金は上昇する。一方、会社を離れた人材の中には、なかなか次の職場を見つけられない人も出てくることになる。この場合、相当、年収を下げないと再雇用されないので、結果的に賃金は下がってしまうだろう。社会全体としてはあまり望ましいことではないが、コロナ後には賃金の二極化が進む可能性が高い。
一連の変化に際してもっとも厳しい状況に置かれるのは、中間管理職と考えられる。
日本型雇用の場合、原則として年功序列なので、管理職としての適性の有無にかかわらず、一定年齢を超えると多くの社員が管理職に昇進していた。管理職の中には、十分な適正を持たず、さらに上の上司の要求を部下に押しつけるだけの人物や、部下の仕事に文句をつけるだけの人物が少なからず存在していた。
コロナショックによってテレワークが進んだことで、こうした存在意義を見いだせない管理職が浮き彫りになるという問題が各社で発生している。コロナ後に新しい企業社会が出現するのだとすると、適正を持たない管理職は別の職場で活躍の場を見つけるしかなくなるだろう。
若い世代の社員もうかうかしてはいられない。今後は組織がスリム化するので、会社が求めるスキルを提供できなければ、自身の居場所はなくなってしまう。今まで以上に、キャリアパスについて真剣に考え、常にスキルのブラッシュアップが必要となる。