兵庫県宝塚市の住宅で家族がボーガンで撃たれ、4人が死傷した事件は11日で発生から1週間。この家に住む無職、野津英滉(ひであき)容疑者(23)=殺人未遂容疑で逮捕=は「家族全員を殺すつもりだった」と供述、長さ53センチの矢を頭部や首に向けて発射した犯行態様を含め、強い殺意が浮かび上がる。弟との確執、複雑な家庭環境-。周囲に頼る人がおらず孤立を深めていたとみられ、兵庫県警が動機の解明を進めている。 【写真】送検される野津英滉容疑者
■「ごんたな孫」 「助けてください」。4日午前10時過ぎ、現場近くに住む女性(56)は、インターホン越しに震える声を聞いた。扉を開けると容疑者の伯母、百合江さん(49)の姿があった。両耳の下を長い矢が貫通していた。急ぎ119番しようとしたが、驚きのあまり電話のボタンをなかなか押せなかった。
野津容疑者はこの日の朝、自宅内で祖母の好美さん(75)、母親のマユミさん(47)、弟の英志(ひでゆき)さん(22)をボーガンで殺害、伯母に重傷を負わせたとされる。一連の犯行後、自宅を出た先で現行犯逮捕された。
伯母に助けを求められた女性は以前、好美さんと交わした会話を思い出した。乱暴者を意味する「ごんたくれ」。それを縮めて「ごんたな孫で困っている」と漏らしていた。
■兄弟の仲悪く 住民らによると、現場では25年ほど前から祖母が1人で暮らし、数年前に野津容疑者と弟が宝塚市内の別の家から引っ越してきた。高齢で体が不自由だった祖母が1階、兄弟が2階で寝起きしていたが、仲は良くなかったという。
兄弟が通っていた市内の空手道場の男性師範(53)によると、小学生のころから兄弟げんかが絶えなかった。当初は容疑者の力が勝っていたものの、弟が中学に進んだあたりで立場が逆転。「弟が兄に仕返しをしていた」と明かす。
弟は空手で頭角を現し、大会で入賞するほどの実力だった。周囲にはことあるごとに「兄貴だけは本当に嫌い」と話していた。
弟は被害者で唯一、複数の矢(2本)を頭に撃たれていた。1本目で致命傷を与えられず、追い打ちをかけた可能性もあり、捜査関係者は「兄の恨みも相当大きかったのでは」とみる。
■母親とは別居 知人らによると、野津容疑者は中学でサッカー部に所属。高校では部活動をせず「自宅で引きこもりがちだった」(師範の男性)。5年前に神戸市内の大学へ進学したが、昨年5月に休学届を提出。学費滞納により、同9月末に除籍されていた。
兄弟は母子家庭に育った。殺害された母親は、少なくとも直近は職に就いていなかった。経済的な困窮から学費が払えなかったのか、一家の生活状況は明らかになっていない。
兄弟は何年も前から、母親とは別居していたとみられる。弟は時折、同じ空手道場に通う男性(43)に「お母さんが帰ってこない」とこぼした。 県警によると、伯母は重傷を負ったが、命に別条はないという。県警は回復を待って事情を聴き、事件の背景を詳しく調べる。