コロナで「留年危機」15歳姉妹の余りに辛い事態
高校野球やインターハイの中止など、スポーツを頑張ってきた若者に大きなショックを与えたコロナ。だが、翻弄されたのはそんな生徒ばかりではない。6月5日、外務省は新たに18カ国・地域に対して渡航中止勧告を発表した。留学中だった生徒や、今年から留学へと飛び立つ予定だった人たちにとっては依然として厳しい状況が続いている。
令和4年度に高校生の海外留学を6万人にしようと、国を挙げて若者の海外留学を後押ししてきた日本。文部科学省の「トビタテ! 留学JAPAN日本代表プログラム」などの活動効果もあってか、昨年8月には高校生の留学者数は4万7千人と過去最高を記録した。
だが、そんな「トビタテ!」も今年はコロナウイルスの影響で募集を停止。ほかにもさまざまなルートで海外へと飛び立つ予定だった子どもたちが影響を受けているのだ。中には、留学断念に追い込まれる人もいる。
近畿地方に暮らす山本優香さん(仮名、高1)、友香さん(仮名、高1)の双子と、瑞希ちゃん(仮名、中2)の3姉妹。かれこれ7年がかりで準備をし、今年4月から母方の親戚が住むオーストラリアの学校に入学予定だったが、コロナの影響で入学が延期となった。現地からは未だ入学の時期についての回答は得られていない。
山本家の3姉妹に起きている大変な事態について、母親の美由紀さん(仮名)に聞いた。
■慌ただしく始まった日本の高校探し
留学手続きを依頼していた現地エージェントから決定的なメールが届いたのは3月19日。 それを見て、母親の美由紀さんは凍りついた。5月31日まで入国が禁止になったこと、そして、入学を7月にずらすという提案が載っていたからだ。 しかもずらすといっても、7月に入学できる保証はなく、コロナの状況により、さらに延期となる可能性もあるという。
美由紀さんは、3月19日の午後1時、まずは通っていた地元の公立中学に電話を入れ状況を説明、3女はいったんこの中学に残ることを認めてもらった。
問題は、中学校を卒業した上の双子だ。「中卒」のまま、いつになるかもわからない留学再開を待たねばならなくなる。 調べると、地元公立高校の2次募集の締め切りがちょうどこの日の午前中だったことがわかった。そこで美由紀さんは慌てて、管轄の教育委員会に電話。なんとか試験を受けさせてもらえないかと懇願したが、電話に出た担当者は、すでに募集は締め切られているため、試験は受けられないと言うばかりだった。
残る手は、万一ビザが下りなかったときのことを考えて数カ月前に受験、合格していた私立高校だ。この学校の入学手続き締め切りの前に、ビザが下りたため、入学手続きを見送り、入学辞退扱いとなっていた学校だ。 美由紀さんがダメ元で電話をすると、同校の校長が事情を考慮してくれ、なんと入学を許可してくれた。ただし、入学条件があった。翌20日が入学者説明会となっているため、入学の場合はすぐに決断をしなければならないこと、そして、入学金など納入金をすべて22日までに納めることだ。
入学金は5万円、学校施設費は25万円となり、2人分で60万円が必要となる。入学を決めれば、これに加えて制服代や教科書代なども必要となり、双子合わせておよそ96万円の出費となる。 「公立に断られ、やむをえずこちらの私立高校にお世話になることを決めました。ただ資金繰りは本当に苦しく、留学用の口座からお金を捻出することになってしまいました」(美由紀さん) 一息ついたのもつかの間、再び、山本家を激震が襲う。なんと、オーストラリアの現地校の入学許可が取り消されてしまったのだ。
現地エージェントの話では、学年制度とターム制度の複雑な事情が絡んでいるという。
「まず、7月の入学の延期が決まったようでした。7月の入学を逃すと、オーストラリアでは学年の最後の学期にあたるターム4での入学になるため、留学生をどう受け入れようか、方針が決まっていないようだと説明を受けました」 ■入学許可、資金力…困難になる「ビザの取得」 彼女たちが留学予定のエリアの場合、学期は4学期制だ。だいたい、新年度は1月始まりで、ターム1が1月下旬から4月上旬、ターム2が4月下旬から7月上旬となっており、当初の計画ではこのターム2に入学の予定でいたのだが、コロナの影響でターム3にあたる7月下旬に入学時期をずらすことを想定していた。
ところが、コロナ問題の深刻化でターム3での入学許可が下りなくなり、残されたのは最後の学期にあたるターム4。 双子の場合、ここで大きな問題が生じる。オーストラリアの義務教育は高校1年生までのため、高校2年生に上がるためには日本の高校入試に匹敵する卒業テストに合格する必要があるのだ。 学校側の意見としては、このテストを、ターム4の出席だけでパスするのは難しいのではないかというのだ。つまり、ターム4で入学する場合、学年を1つ落として留年すること提案してきたのだ。この方針を了解しなければ、入学許可が下りず、ビザ申請にも進めない。
また、ビザ申請にはこれに加えてもう1つの関門がある。エージェントの説明では、オーストラリアの場合、滞在予定の年数分の学費と生活費を賄える経済力があるという証明がなければ留学生ビザが発行されないという事情がある。 家族で考えあぐねていると、6月に入りエージェントから新たな提案が来たが、これも現状の打開策にはならなかった。
提案されたのは8月から現地校が行う特別枠のオンライン授業に日本から参加、各種テストや提出物をクリアし、基準を満たせばTerm3とTerm4を受講したものと見なすというものだ。渡航は2021年1月となるが、新年度を次の学年からスタートできるという。
しかし、学校側が設けた一定の基準をクリアできなければ、1月の入校後は前回の提案通り、留年してのスタートとなる。 また、オンライン授業を受講すれば、たとえ留年になったとしても、授業料が発生する。ただでさえ私立高校での授業料が余分にかかることになっているため、リスクが高いと判断した母親は、やむなくもう一つの選択である来年1月から一つ学年を下げての留学で申し込みを進めることにした。 「留年してスタートの場合、入学できても当初の予定より1ターム(約3カ月)ぶん留学期間が増えるため、ビザも再取得が必要です。残高証明の再提出を求められたらかなり苦しい状況です」
山本家は留学資金を貯めるのに実に7年を要した。 「今回、私立高校に入学する費用がかさみ、わが家の預金残高は減っています。そんななか、日本の学校では登校再開が決まり、制服の夏服も買わなければならずでした。ここへ来て、来年1月まで足止めが決まったので、日本の高校の学費は年内は支払うことになります。 コロナの影響で余分に払わなければならなくなった費用は、ざっと見積もっても450万円を超えます。本人たちは留学を楽しみにしていましたから、なんとか行かせてやりたいとは思うものの、このままだと、資金がつきて途中で帰国という可能性もあります」
母親の美由紀さんは落胆する。
■「入学前」では国の制度も使えない 外務省のHPを見ると、山本家が留学予定だったオーストラリアをはじめ、アメリカ、カナダ、イギリスなど、留学先として人気のエリアはすべて渡航中止勧告となる感染症危険情報レベル3となっている。コロナの影響で留学予定が大きく変わったのは、山本家だけではないだろう。 海外では国により、現地にとどまる留学生を対象にした助成金など支援策を打ち出したところもあるが、山本家のケースのように、まだ留学生ではない、“入学前”の状況ではこうした制度は使うことができない。
留学関係の相談を受け付けているNPO法人留学協会によれば、こうした留学に関する相談件数は4月、5月と増えてきたという。同協会の担当者はこう語る。 「途中で留学が中断してしまい、日本に帰国している人からの相談も多数あります。いちばん多い相談は返金トラブルです。現地校からなんのフォローもない人たちがいて、彼らにはアメリカなど、オンライン授業を続けている通信制の学校の紹介もしていますが、これを受けるにもまたお金がかかり、なかなか難しい状況です」
留学が中断となった場合、まずは、授業が行われなかった分の授業料について、学校側が生徒側に返還する意志があるかどうかを確認するよう促している。 「留学の仲介をする業者との契約書と、学校との契約書は別々になっていることが多いです。それぞれに見てみてください。場合によっては、現地校へ直接連絡してみるのも手です」 それでも、契約条項の内容によっては一切、返還されないこともあるという。
■交換留学や私費留学の場合も「支援なし」
このままの状態が長引けば、現地での卒業認定の取得が難しく、想定した大学受験ができなくなる子どもたちが多発することも考えられる。国の政策として留学を奨励し、後押しを続けてきた日本。同協会の担当者は、「卒業資格がどうなるか、また留年となってしまった場合のことなど、国でもセーフティーネットを考えてほしい」と語る。 独立行政法人日本学生支援機構の調査によれば、日本から海外へ留学している学生の数は2018年度の段階で大学生、大学院生も含めると11万5146人。前年度と比べると9845人増となっており、増加の傾向にあった。
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