テレビ業界で未だ流れる五輪中止説 民放各局が緊急事態に備え考え出した秘策とは>
7月23日は東京五輪の開会式である。開催まで1カ月を切ったというのに、いまだSNSでは“#東京五輪中止”がトレンドワードになるなど、開催に反対する声が少なくない。
月刊のテレビ情報誌は番組表を空白のまま発売するなど、テレビ業界も本当に五輪は開催されるのか、疑心暗鬼になっているようだ。思えば、昨年はコロナ禍による五輪の延期決定で、テレビ局はすったもんだの事態となった。果たして今年はどうなるのか?
【写真】この記事の写真を見る ***
東京五輪オフィシャルパートナーの朝日新聞が、社説で「夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める」とぶち上げたのが5月26日のこと。この威を借りて、五輪中止を主張するコメンテーターもいた。民放ディレクターが言う。
「6月20日に緊急事態宣言が解除されたものの、同時に感染者数が前週を上回るようになり、リバウンドを心配する声が出てきました。現状では五輪をやるつもりでしょうが、業界には未だ、本当にこんな状況でできるのかという声があります。開催2週間前の7月9日に中止決定が発表されるなんていう説がまことしやかにに流れているくらいです。むろん、民放各局は昨年と同じ轍を踏まぬために、中止になった場合も想定しています」
史上初の縦割り編成
万が一、中止になれば、番組枠には穴が空く。東京五輪では、どの程度の放送時間を予定しているのだろうか。
「東京五輪で民放は、大会前後の関連番組を合わせ、総放送時間は過去最大の450時間超を予定しています」
昨年は、コロナ禍でドラマの撮影がおぼつかなくなり、過去のドラマの再放送が相次いだ。前述の通り、月刊のテレビ情報誌は、五輪番組を空白にしたまま発売となった。予定している450時間超もの放送時間に穴が空いたらどうなるのだろう。
「実は今年の五輪中継は、これまでと異なり、民放は特別な編成タイムテーブルを予定しているんです。テレビ情報誌をお持ちの方はご覧いただくと分かると思いますが、番組表が空白とはいっても、様々なチャンネルが競技ごとに放送する“虫食い”状態のようになっていません。
今年の五輪中継は、民放各局が日替わりで放送権を持つことになっているんです。これまでのように柔道は日テレ、競泳はテレ朝といったような分け方でありません。
具体的には、開幕式翌日の24日はテレ朝、26日はフジ、27日は日テレ、28日はTBS、29日はテレ東が、基本的に朝9時から夜11時まで放送し、続いてその日のハイライト番組『東京五輪プレミアム』も放送する、縦割りの編成となっています」
ラテ欄を見ながら、あっちこっちとチャンネル変える必要がなくなったということか
万が一中止でも
「もちろん1局だけでは競技を放送しきれないので、基本はメインの局とサブの局で中継していきます。丸1日放送するのがメインの局です。これまでなかった試みであり、ある意味、大した発明かもしれません。民放各局は、競技の不公平さは関係なく、その日1日は、丸ごとオリンピック一色にできるわけです。テレビ局にとっては、番組の編成体制を組みやすくなりました」
丸1日、オリンピックに集中できるというのは、確かにやりやすそうだし、テレビ局も一丸となって盛り上がるに違いない。とはいえ、その五輪が中止になったらどうするのか。
「丸1日の編成だからこそ、万が一中止になっても影響を受けにくいんです。五輪中継を準備しているのは、各局のスポーツ局です。中止になった場合は、おもにバラエティ番組が通常編成に戻り、レギュラー番組が放送されるだけだからです」 “虫食い”中継より混乱が生じないというわけか。
「通常、民放の番組は“隔週単位”で収録しています。たとえ五輪の時期でも、収録はある。五輪が開催されれば、1週分のストックができるという考えで、今まで通り収録を進めているんです。これが今回、民放各局が寄り集まり、全局一致で決定した番組日替わり編成という秘策なんです」 デイリー新潮取材班 2021年7月1日 掲載