>コロナ禍は、“平和の祭典”の皮をかぶって金儲けをたくらむ五輪というものの本質をまざまざと露呈させました。東京五輪中止にとどまらず、五輪の廃止を含めて見直す時期に来ていると思います
世論の8割が開催中止を求めるなか、すでに組織委員会は「無観客」での開催を視野に入れ始めた。しかし、206の国と地域の選手が全員、来日するという保証はどこにもない。むしろ、選手が来られない可能性のほうが高いのだ! 各国の動向を追った
4~5割の出場枠が未定。海外から選手団が来ない可能性も
2/19/2022
コロナ禍での東京五輪開催に国民の8割が「反対」の声を上げるなか、組織委員会・森喜朗前会長による女性蔑視発言で一気に堤防が決壊した。
ロンブー淳や福島県の原発事故被災男性など聖火ランナーの辞退が相次ぎ、大会ボランティアも500人を超える大量辞退者を出した。森発言が呼び水となり、世論はより強く開催中止へ傾いた。
一方で、延期された東京五輪はすでに「無観客」が既定路線になりつつある。IOCバッハ会長が1月に「無観客という選択肢もある」と言及し、組織委員会も無観客のシミュレーションに入った。
しかし、ここにきてもっと重大な問題が表面化しつつある。海外から選手団が来ない可能性があるのだ。日本国内においてさえ、内定選手は20%にとどまっており400人以上の選手が未選出の状態なのだ(1月時点/NHK調べ)。スポーツ紙の五輪担当記者は言う。
「代表選手を選出する国際大会が軒並み中止になっています。宮崎県で行われるワールドトライアスロンの中止が決まったばかりですが、大きいところでは韓国での世界卓球選手権、中国でのアジア陸上選手権も中止になりました。ロンドンでのボクシング欧州予選の中止など、大陸別の予選も軒並み中止となっている状況です」
東京五輪には約1万1000人のアスリートが参加する予定だが、4~5割の出場枠がまだ決まっていない。元ラグビー日本代表で神戸親和女子大学教授の平尾剛氏は、相次ぐ世界大会の中止についてこう述べる。
「これから、新たに選考のための大会を行うことはほぼ不可能です。そうなると、これまでの成績をもとに各競技の協会が選手を選考することになります。しかし、これでは五輪の理念である『フェアネス』が担保できません」
ワクチン格差」が五輪にも
さらにワクチン問題もある。東京五輪への選手派遣を目指し、ハンガリーやセルビア、イスラエルなど優先的にワクチン接種を行っている国もある。
しかし、参加国の7割が途上国・新興国という状況を考えれば、国際社会で問題になっている「ワクチン格差」が五輪にも当てはまる。
「選手へのワクチン接種に関しては、先進国で奇妙な現象が起きています。独仏伊などでは高齢者や医療従事者を差し置いて選手に優先的に打つことが国民の反発を呼ぶとして、選手自身が辞退しています。先進国の選手はワクチンがあるのに接種せず、途上国の選手はワクチン不足で打てないという状態なのです」(前出の記者)
世界大会の相次ぐ中止やワクチン問題など、各国の状況を文末にまとめたが、無観客に加えて「無選手」となれば開催は不可能だろう。
来日の予定が決まらずホストタウンも大困惑
一方、海外から選手が来るのか否かはっきりしないなか、気をもんでいるのがホストタウンだ。
「来るという前提で調整しているが、いつ来るか未定です」(リトアニアの選手を受け入れる神奈川県平塚市・オリンピック・パラリンピック推進課) 「具体的な話は何もありません」(アメリカ、ボツワナ、ペルーの選手を受け入れる千葉県佐倉市・地域創生課)
ルワンダの選手を受け入れる岩手県八幡市役所の担当者は言う。
「7月上旬からの直前合宿受け入れが決まっていますが、ルワンダは感染拡大でロックダウンになってしまった。出発前にワクチン接種をしてもらえれば多少、リスクが回避できると思いますがなかなか難しい。岩手も都会ではないので、選手がPCR検査をできる万全の体制をつくるのは難しい」
各地のホストタウンは、受け入れ準備・調整に加え、地元住民からは感染リスクを警戒する声もあり、対応に苦慮しているようだ。
果たして選手は日本に来るのか。東京五輪組織委員会に各国選手の来日予定について訪ねたが、期日までに回答はなかった。
バイデン大統領はIOCの開催強行姿勢に懐疑的
今後、選手や参加国の減少にますます拍車がかかるかもしれない。北京五輪(’08年)の取材経験のあるスポーツライターは言う。
「五輪開催の7月、南半球ではちょうど冬です。昨年も7~9月に南半球のブラジルやオーストラリアで感染が拡大したので、今年も同じ状況になるでしょう。そうなると、南半球の選手は一層、来日しにくくなる。
また最大規模の選手団を派遣するアメリカの動向も注視しないといけません。先日、バイデン大統領も『開催は科学に基づくべき』とIOCの開催強行姿勢に釘を刺しました」
果たしてアメリカの選手団派遣中止はあり得るのか。アメリカ政治に詳しい明治大学教授・海野素央氏は言う。
「バイデン氏は、『オリンピックを政治主導で開催してはいけない』という考えの持ち主で、政治家の都合でやるべきではなく、科学的に安全な基準をクリアすることが大切と考えています。だから、安全基準がクリアされなければ、選手団派遣は難しいかもしれません。
ビジネス優先のトランプ氏だったら、放映権を持つ米NBCのことを考えて五輪開催を積極的に後押しした可能性がありますが、バイデン氏はビジネスよりも国民の安全を第一に考えている共感・協調の大統領です。一方で、先日の発言では含みをもたせており、同盟国である日本の立場も気遣っているようにも見えます」
失敗してもいいから開催してほしい中国
アメリカが態度を決めかねるなか、反対にやる気満々なのはもう一方の大国・中国だ。中国人ジャーナリストの周来友氏は言う。
「先日、バッハ会長と習近平国家主席が電話会談をし、’22年の北京冬季五輪の開催について条件が整ったと世界にアピールしました。北京五輪を開催するためには、東京五輪は絶対、中止にしたくない。東京五輪が成功したら、北京へとスムーズに繋がりますし、参加国減少や無観客で禍根を残しても、北京で成功させて『社会主義の勝利』を宣言できます。
結果はどうなってもいいので開催してほしいというのが本音でしょう。選手団も一人欠けることなく派遣してくると思います。各国の選手がいないなか、東京五輪は日本と中国の選手だけの“運動会”になる可能性もありますよ」
前出の平尾氏は最後にこう締めくくる。 「」
開会式は5か月後に迫っている。
世界各国で選考会中止&ワクチン問題が!
アメリカ……水泳競技の選考会で参加者が半数以下に アメリカ水泳連盟は、感染拡大により選考会の規模を大幅に縮小すると発表。750人の選手のうち半数以下での選考会になると発表した(『ワシントン・ポスト』1月27日付)
ドイツ……ドイツの五輪候補の72%がワクチン優先接種に反対 ドイツオリンピックスポーツ連盟の調査で、東京五輪への参加予定676人の選手のうち72%がワクチンの優先接種に反対していることが判明(『inside the games』2月6日付)
イタリア……アスリートへの優先接種は要求しないとの方針を発表 イタリアオリンピック委員会は、選手に優先接種することを要求しないと表明。「高齢者には20歳のアスリートより先に接種する権利がある」とも(ロイター通信1月31日付)
フランス……ワクチンを打たない選手の五輪出場は難しいと発言 仏オリンピック委員会の会長は「ワクチン接種を受けていない選手は日本入国後2週間隔離となり、朝晩PCR検査が必要」との見解を示した(AFP通信1月26日付)
ウガンダ……唯一の競技場が病院になり、選考会が行えない状態 アフリカのウガンダでは国内唯一のナンブールスタジアムがコロナ患者専用の病棟になったため、陸上などの競技の選考ができない状態となっている(『Dairy Monitor』2月2日付)
イギリス……ボクシングの五輪欧州予選を中止すると発表 IOCのボクシングタスクフォースは、EU各国と英国の往来が規制されていることに鑑み、ロンドンでの東京五輪欧州予選を中止すると発表した(ロイター通信1月30日付)
ドイツ……フェンシング代表が出場辞退を示唆 五輪に2度出場しているフェンシング・ドイツ代表のM・ハルトゥング選手は、「パンデミックを助長すると感じれば家にとどまる」と辞退を示唆した(時事通信1月12日付)
ニュージーランド……オリンピック委員会が選手の辞退を容認 ニュージーランドオリンピック委員会は「出場を辞退する選手が出てもやむを得ない」と辞退を容認する考えを示した。同国からは200人の選手が出場予定(共同通信1月27日付)
<取材・文/慎 虎俊 奥窪優木 児玉ジン>