6年間で「最低でも2000万円」…私大医学部の学費が「こんなにも高い」事情

12/27/2021
私大医学部の学費と偏差値は、反比例の関係だ。学費が下がると偏差値が上がり、学費が上がると偏差値が下がる傾向にある。2021年から、6年間の学費を1200万円も値上げした東京女子医科大学(以下、東京女子医大、東京都)は志願者数が激減し、偏差値も下がった。またコロナ禍で親の収入が減り、合格した私大医学部への進学を断念した受験生もいる。
【写真】私大医学部「学費・偏差値ランキング」を公開
私大医学部の6年間の学費の平均は約3200万円。国公立大の約10倍と高く、もっとも高い大学と低い大学の医学部の学費を比べると、その差は約3000万円にも達する。高低差の激しい私大医学部の学費の実情について、紹介していこう。
一気に1200万円の学費値上げ…!
東京女子医大病院の中央病棟[ウィキメディア・コモンズ]
2020年6月、東京女子医大が、コロナ禍による収入減を理由に夏のボーナスを支給しないことを決めたニュースが世間を騒がせた。その後、一転して支給することになったが、7月末に6年間の学費を1200万円値上げすることを公表し、同大を受験予定だった受験生とその保護者に衝撃を与えた。 前年の6年間の学費は3409万6000円で、31ある私大医学部のなかで15位の安さで中位だったが、値上げ後は4621万4000円となり、4736万5000円の川崎医科大学(岡山県)に次ぐ高さとなった。
「東京女子医大は2001年と2014年の医療過誤により、2度も厚労省から特定機能病院の承認を取り消されました。特定機能病院の割り増し報酬がなくなったうえ、患者数が激減。私学助成金も減額されて、経営状況が悪化しました。 学費の大幅値上げは経営状態が悪いからだと言えますね。地方と比べて経費が高いこともあって、首都圏の私大医学部の附属病院のなかには経営の危機に瀕しているところが少なくありません」
こう指摘するのは医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師。大学の財務諸表を見ると、経営状態がわかるという。
受験者数も激減した
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以上のような理由で、学費が1200万円も高騰したのだ。当然学費が値上げされれば、志望動向にも影響が出る。河合塾の医学部専門特化校舎・麹町校の神本優校舎長は、医学部受験生の受験校選びについてこう話す。
「6年間の学費が約350万円と安い国公立大学医学部の場合、生徒は学力を基準にして受験校を決めます。しかし私立大学では学力に加え、保護者が払える学費の上限額も加味する必要があります。昨年夏に東京女子医大が1200万円の値上げを公表したため、同大の受験を断念したご家庭もありました」
同大の学費の大幅値上げは、実際に志願者数の激減につながった。2020年の志願者数は1390人だったが、2021年は945人で445人も減った。前年比は68%で、全私大医学部のなかでもっとも志願者数を減らすことになった。
またコロナ禍で保護者の収入が減ったことも、医学部受験者数に影響を与えている。
「コロナ禍の収入減で、学費の上限額が厳しくなったご家庭もあります。特に旅行関係のお仕事をされているご家庭が影響を受けたように思います」(神本校舎長) 医学部専門予備校メディカルラボ・本部教務統括の可児良友さんも、コロナ禍における保護者の収入減についてこう語る。
「2021年の入試で私大医学部に合格したのに、保護者の年収が減ったために進学を諦めた生徒もいました。もう1年浪人して、保護者が学費を払える大学に再チャレンジするようです」
「6年間で3000万円までなら出せる」
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ここで2021年入試の志願者数の増減をみてみよう。国公立大医学部前期試験の志願者数は、前年より32人増えた1万4773人。
「少子化の影響もあり、年々、国公立大学の志願者数が減っていましたが、32人とはいえ7年ぶりに増加に転じました。減少に歯止めがかかったのは、コロナ禍での保護者の収入減も関係あると思います。学費が安い国公立大学を目指す生徒が増えましたね」(神本校舎長) 一方、私大医学部前期試験ののべ志願者数は、前年よりも5073人減った7万463人。
「例年なら10大学ぐらい受験していたはずの生徒が、コロナ禍での移動を避けて5~6大学に絞って受験したケースが多く見られました。本命校以外は、地元の大学や地元に地方会場を設置している大学を中心に受験したようです」(可児さん)
「私大医学部の受験を考えているご家庭からは、『6年間で3000万円までなら出せる』という話はよく聞きますね。学費の上限額がないご家庭にとって、値上げは志願者減でライバルが減るので、ありがたい話かもしれません」(神本校舎長)
実際に、裕福な開業医の家庭などでは学費を気にせず、子どもを私大医学部に入学させる傾向があるという。過去に取材した学費が高いある大学の学生駐車場には、高級車がずらりと並んでいた。「職員駐車場の車よりもはるかに高い車ばかりですね」と、職員が話していたのが印象的だった。
学費の増減によって大きく変動する私大医学部の受験者数。受験する人数が変わるということは、すなわち相対的な「偏差値」も変化するということだ。
「綺麗な反比例」を見せる私大医学部の学費と偏差値の関係性や、国公立大と比較して私大の学費が高額な理由、さらに卒業後の縛りはあるものの、低額や0円で医師になる道については、【後編】『6年間で「平均3200万円」…私大医学部の学費が、国公立大の「10倍」なワケ』にて紹介しよう。