既婚者でも恋がしたい?コロナで“純愛迷子”の中年男女が増えたワケ
ある平日のランチタイム。都内某所にて、中高年男女に出会いを提供する合コンが開かれていた。この合コンは中高年向けのいわゆる婚活合コンではない。参加者は男女8名ずつで年齢は40代半ば~60代前半。全員が既婚者なのである。
12/24/2020
男性ならスーツにやや派手目のネクタイ。中にはポケットチーフを刺す人も。女性は巻き髪にロングスカートのミセススタイル。ミヤケイッセイのプリーツプリーズやエルメスらしきスカーフをこの時とばかりにめかし込んでいるのが、年代を感じさせる。いずれも単独で参加しているようで、緊張した面持ちだ。当然、会話もぎこちなく、アルコールがほどよくまわり始めるまでは、笑い声が上がることもなかった。
とにかく恋愛をしたい!と語る中高年既婚者たち
こうした大人向け合コンを開催するLOVERSの代表・青木晃氏によると、自粛明け以降、参加者が2パターンに大きく分かれたという。
「もともと遊び人で、とにかくいろんな異性と出会ってヤリまくりたいという病的に遊びたい人のケース。もう一つが、真剣な出会いを探しているケース。真剣なタイプは離婚を視野に入れているケースもありますが、まずは恋愛をしたいという人が多いですね」
では、自粛前はどんな参加者が多かったのだろうか。
「ママ友以外の友達ができたらいいな……とか、仕事と家庭以外の繋がりが欲しいというのが参加の動機で多かったですね。その上で、『もし、できたら不倫相手が見つかればいいな』というフワッと軽い感じの人が多かったんですよ。でも、そういった人はコロナの感染リスクを恐れて参加も自粛傾向にあるようですね」
ちなみに、自粛空け直後に参加した人の中には、参加の前に何度も「どのような人が来るのか」や、「カップルが生まれる確率はどれくらいなのか」などの詳細についての問い合わせをするケースが多かったという。そんな前のめりな参加者の中にはパーティ終了後に、「1万円の参加費を支払ったのに、誰とも出会えなかった。どうしてくれるんだ!」とクレームを入れてくる人もいたそうだ。
「それだけ熱意を持って参加してくれる方たちが増えているんです。最近は特にご新規で参加される方が多く、参加者の8割程度が新規の方で、リピーターは2割程度です。友達同士ではなく、お一人で申し込みされる方がほとんどですね」
だが、忘れてはならないのが参加者は皆、既婚者だということだ。家に帰れば、配偶者がいて子供もいる。長期休暇ともなれば、家族で旅行することだってあるだろう。そこには、子供の可愛い笑顔があり、成長する姿を見続けることは紛れもない幸せの一要素だ。もちろん配偶者への不満が一切ない人はいないだろう。夫婦だけなら籍が入っているか否かだけで、基本は男女関係だ。だが、子供の思い出を曇らせるリスクを取ってまで、真剣な交際を望むとはどういう心境なのだろうか。
セフレではなく彼女が欲しい50代既婚男性
「こないだ参加したパーティで『あなた、セフレいるでしょ?』って聞かれ、唖然としましたね。バカにするなよと。いい人がいれば付き合いたいと思って参加しているのに。僕はセフレじゃなくて彼女が欲しいんですよ」 こう話すのは50代前半の男性だ。外資系企業でコンサルタントをしており、過去に2年間付き合った彼女がいたという。真剣にお互いが向き合う相思相愛だったというが、金の切れ目が縁の切れ目だったのか、
「ようやく9月に再就職先を見つけたのですが、相手も自分も熱が冷めてしまったようで……。LINEでの連絡は今も取り続けているのですが、付き合いを復活させたいとは思えないんですよね」
ビビッとくる「運命の不倫相手」を探すアラフィフの美魔女
そのため、新しい恋愛を求めて参加したのだという。だが、しつこいようだがこの男性も既婚者である。また、16歳の子供を持つアラフィフの美魔女はこう話してくれた。ファッションと合わせた色合いのネイルを施したほっそりとした指には、結婚指輪が光る。
「ビビッとくる出会いを求めているんです。ヤリチンの餌食になるのはまっぴら。私は、ただヤリたいわけじゃないから。だから、その日の参加者に出会いがなければ、その後は正直、地獄。だから、せめて食事だけでも楽しみたいなと、お店選びのセンスがいい既婚者合コンに参加しているんですよ」
少し前に参加した別の主催者のパーティではいい出会いがあり、数日前にはランチデートしたというが……。
「彼がどんな食事が好きですかと聞いてきたので、和食だと答えたんです。普通、デートだったら個室の割烹などを選ぶでしょう? それなのに彼が連れて行ってくれたのは、880円のアジ定食が評判の和定食屋。ガヤガヤした雰囲気で、食事をしたらサッと出ていかないといけないような場所ですよ。デートでここ?って腹が立ちましたね。わざわざメイクをして、お洒落をして、電車に乗って都心まで行ったのに880円はないでしょう。食事もせずに帰りましたよ」
帰宅途中、その妙齢の美熟女は、件の相手にきついアドバイスのメールを送ったそうだ。 「デートを楽しみたくて行ったのに880円のお店はないでしょと。これじゃ誰も付き合ってくれないよと。そうしたら、『子供が3人いて経済的に大変で……』とか言い訳じみた返事が来たんです。ここで子どもの話する?ってさらに幻滅しましたよ」
見た目でビビッと来る出会いがあっても、デートのエスコートや会話の内容などのチェック項目をクリアしないと真剣交際には辿り着かないようだ。川原でジュースを飲みながら肩を寄せ合うだけで幸せになれた10代のような恋愛は求めていないのだろう。ちなみに彼女は、その日、お眼鏡に叶う相手がいなかったらしく会が終了するやいなや即刻席を立ち、帰っていった。
惰性で続けてきた結婚生活と置いてきてしまった個人の幸せ
前出の主催者の青木氏は、コロナで人生観が変わった人が多いのではないかと分析する。 「東日本大震災の時もそうでしたが、大きな天災があると、人って“果たして今のままでいいのだろうか”と自分自身を振り返るきっかけになるのではないでしょうか」
確かに、東日本大震災の時には結婚件数が一時急増した。今回のコロナにおいては「コロナ離婚」などという言葉が流行したように、自粛期間中に距離の近くなりすぎた夫婦が互いのイヤな面に気づいてしまい、離婚の選択肢を視野に入れる人が増えたとされている。だが「コロナで真剣交際を求めるようになる」とは一体どういうことなのだろうか。
「これまで惰性で結婚生活を送ってきた人が、コロナでじっくりと人生を見つめ直す時間ができ、『この人と一生結婚生活をし続けていっていいんだろうか。自分にとって本当の幸せとはなんだろうか』と自粛期間中に考えたように思えます。同世代の僕も同じですが、リストラの恐怖に怯えながら日々家族のために働いています。それが当たり前だと思ってきましたし、今でも家族を幸せにするのが優先順位として1番にあります。
でも、コロナに感染して命を失うかもしれないと考えた時に、個人の本当の幸せはどこにあるのかなと、ふと思ってしまった。その時に、真実の愛を見つけたいと思ってしまった。そんな人が多いのではないでしょうか」
古くから青い鳥は身近にあるものとされているが、彼らにとっての真実の愛は一体どこにあるのだろう。なぜなら、かつて“真実の愛”だと思い、生涯を共にすることを誓った相手に迷いが生じているのだ。真実の愛とはなんぞやと自らに問いながらそれを探すというのは、正解のない答えを探す迷宮に足を踏み入れていることになる。人生の迷い道で、彼らが見つけられる愛はどんなものなのだろうか。