嵐が起こす地震、地震に伴う発光現象、科学で解明【地震のはなし
事実か都市伝説か、地震と関連するさまざまな自然現象の謎に挑む
人々に大きな災いをもたらす地震。それだけに、地震雲や発光現象など、地震とその他の自然現象の関連については、昔から虚実ないまぜにさまざまな逸話が語られてきた。多くはいまだ謎に包まれているが、なかには科学的に証明されたものもある。
ギャラリー:美しくて恐ろしい世界の雷雲 写真11点
台風やハリケーンなどの巨大な嵐が起こす地震「ストームクエイク」はそのひとつだ。
2019年10月に学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された論文によると、巨大な嵐の猛烈なエネルギーにより、数千kmにわたり地震の波が伝わる可能性があるという。研究チームは個々のストームクエイクが発する「爆発的な揺れ」を特定したほか、沖合の発生源を突き止めることにも成功した。
「彼らの発見には驚きました」と言うのは、米コロンビア大学の地震学者ヨーラン・エクストローム氏だ。なお、氏は今回の研究に関わっていない。
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台風やハリケーンなどの巨大な嵐が起こす地震「ストームクエイク」はそのひとつだ。
2019年10月に学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された論文によると、巨大な嵐の猛烈なエネルギーにより、数千kmにわたり地震の波が伝わる可能性があるという。研究チームは個々のストームクエイクが発する「爆発的な揺れ」を特定したほか、沖合の発生源を突き止めることにも成功した。
「彼らの発見には驚きました」と言うのは、米コロンビア大学の地震学者ヨーラン・エクストローム氏だ。なお、氏は今回の研究に関わっていない。
ありえない異常な振動が見つかった
ストームクエイクが発見されたのは偶然だった。
2018年の夏、今回の研究チームを率いた米フロリダ州立大学の地震学者ウェンユァン・ファン氏らは、「超低周波地震」を研究する手法を開発していた。超低周波地震とは揺れの周期が非常に長い地震で、人間が気づくことはない。
その作業中、超低周波地震とは微妙に異なる、異常な振動があることに彼らは気がついた。驚いたことに、地殻の活動による地震とは対照的に、この振動には季節性があり、5月から8月にかけては一度も発生していなかった。さらに奇妙なことに、振動は北米大陸の東西の海岸線から広がっていた。だが、北米大陸では、東海岸に地震の震源になるような断層はほとんどない。
不思議に思ったファン氏らが、何が起きているかを探ったところ、こうした振動の多くは、大型の嵐やハリケーンと同時に発生していた。研究チームが詳しいデータを分析したところ、2006年から2015年までの間に、なんと1万4077回のストームクエイクを発見した。
とはいえ、大きくて強烈な嵐が必ずしもストームクエイクを引き起こすわけではない。例えば、秒速約40mの風を記録したハリケーン「サンディー」の際には記録されなかった。
ストームクエイクを引き起こすには、特定の地形が関係しているようだ。
幅の広い大陸棚で、海底が少し盛りあがった「堆(たい)」の周辺でしかストームクエイクは発生しないという。こうした地形には、海の波のエネルギーが集中することで、爆発的な揺れが生じるのだ。ファン氏はこれを、ハンマーで海を叩くようなものだと説明している。
2018年の夏、今回の研究チームを率いた米フロリダ州立大学の地震学者ウェンユァン・ファン氏らは、「超低周波地震」を研究する手法を開発していた。超低周波地震とは揺れの周期が非常に長い地震で、人間が気づくことはない。
その作業中、超低周波地震とは微妙に異なる、異常な振動があることに彼らは気がついた。驚いたことに、地殻の活動による地震とは対照的に、この振動には季節性があり、5月から8月にかけては一度も発生していなかった。さらに奇妙なことに、振動は北米大陸の東西の海岸線から広がっていた。だが、北米大陸では、東海岸に地震の震源になるような断層はほとんどない。
不思議に思ったファン氏らが、何が起きているかを探ったところ、こうした振動の多くは、大型の嵐やハリケーンと同時に発生していた。研究チームが詳しいデータを分析したところ、2006年から2015年までの間に、なんと1万4077回のストームクエイクを発見した。
とはいえ、大きくて強烈な嵐が必ずしもストームクエイクを引き起こすわけではない。例えば、秒速約40mの風を記録したハリケーン「サンディー」の際には記録されなかった。
ストームクエイクを引き起こすには、特定の地形が関係しているようだ。
幅の広い大陸棚で、海底が少し盛りあがった「堆(たい)」の周辺でしかストームクエイクは発生しないという。こうした地形には、海の波のエネルギーが集中することで、爆発的な揺れが生じるのだ。ファン氏はこれを、ハンマーで海を叩くようなものだと説明している。
地震前の謎の発光現象、流れを変えた長野県の松代群発地震
科学的に証明されたもうひとつの例に、発光現象がある。地震の前に謎の光が見られることは、何世紀も前から言い伝えられてきた。
その謎を解明した論文を発表したNASAエイムズ研究センターの物理学者フリーデマン・フロイント氏によると、発光現象の記録は少なくとも1600年まで遡るという。
発光のタイミングはさまざまだ。例えば2009年に、イタリアのラクイラ地震の発生数秒前に、石畳の上をちらつく直径10センチほどの炎を大勢の人が目撃している。1988年にカナダのケベック州を襲った地震の場合は、11日前に発光現象の報告が相次いだ。
「昔は宗教的な観点からの解釈が多かった。今はUFOと考える人も多い」とフロイント氏。まともに受け取るには信憑性に欠け、地質学者や物理学者ら専門家も学問的に取り組む対象ではなかったという。
ところが、1960年代半ば、長野県の松代群発地震をきっかけに状況が変わった。発光現象がカメラにはっきりととらえられ、地震活動との関連が確認されたのだ。
その謎を解明した論文を発表したNASAエイムズ研究センターの物理学者フリーデマン・フロイント氏によると、発光現象の記録は少なくとも1600年まで遡るという。
発光のタイミングはさまざまだ。例えば2009年に、イタリアのラクイラ地震の発生数秒前に、石畳の上をちらつく直径10センチほどの炎を大勢の人が目撃している。1988年にカナダのケベック州を襲った地震の場合は、11日前に発光現象の報告が相次いだ。
「昔は宗教的な観点からの解釈が多かった。今はUFOと考える人も多い」とフロイント氏。まともに受け取るには信憑性に欠け、地質学者や物理学者ら専門家も学問的に取り組む対象ではなかったという。
ところが、1960年代半ば、長野県の松代群発地震をきっかけに状況が変わった。発光現象がカメラにはっきりととらえられ、地震活動との関連が確認されたのだ。
地震発光現象のメカニズム
以来、発生メカニズムについてさまざまな説が登場したが、決着をつけたのがフロイント氏の研究チームだ。論文は学術誌「Seismological Research Letters」誌2014年1月・2月号に発表された。
注目したのは岩石の電荷だった。同氏によるとまず、「力が加わった玄武岩や斑れい岩に、電荷の“充電スイッチ”が入る」という。そこに地震波がぶつかると、岩石内の電荷が解放される。
地質の「岩脈」という構造も重要だ。これは、マグマが垂直の割れ目に流れ込んで冷えた地盤で、なんと地下100キロに達する場合もある。ここで玄武岩や斑れい岩が電荷を解放すると、地下から地表に向けて一気に駆け抜けていくことになる。
「電荷は結合して一種のプラズマのような状態になり、猛スピードで移動し、地表ではじけて空中放電を起こします。これが色鮮やかな光の正体です」
フロイント氏は、世界中で発生する地震で、発光の条件が揃うケースは0.5%未満だという。比較的まれな現象というのも、もっともだ。
「一口に地震発光現象といっても、決まった形状や色があるわけではありません。地面からくるぶしの高さまで上昇する青味がかった炎のような光や、空中を数十秒から時には数分ほど漂う光の玉などの目撃例が多いです。雷によく似ているが上空からではなく、地面から伸びる一瞬の閃光(せんこう)が最大200メートルに達したという証言もあります」
「タイミングや場所もそれぞれ異なります。大地震の数週間前に発生する場合や、実際に揺れている最中に光ることもある。また、震央から160キロ離れた地点で観測された記録も残っているそうです」
フロイント氏の研究チームは、世界規模の地震予知システムの開発に取り組んでいる。今回の研究を基に、発光現象も予知の指標の1つとして組み込まれることになるという。
「特徴的な発光現象が3つ、4つと続いたら、地震が発生する可能性が高いといえます。頻繁に目撃できる訳ではありませんが、もし突発的に光った場合には十分注意してください」
地震予知に利用する意見には懐疑的な研究者も多いが、フロイント氏は方向性には自信を持っている。
「発光の詳細を理解し、ほかのさまざまな指標と組み合わせれば、予知の精度を高めることができるはずです」
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。世界のニュースを独自の視点でお伝えします。
注目したのは岩石の電荷だった。同氏によるとまず、「力が加わった玄武岩や斑れい岩に、電荷の“充電スイッチ”が入る」という。そこに地震波がぶつかると、岩石内の電荷が解放される。
地質の「岩脈」という構造も重要だ。これは、マグマが垂直の割れ目に流れ込んで冷えた地盤で、なんと地下100キロに達する場合もある。ここで玄武岩や斑れい岩が電荷を解放すると、地下から地表に向けて一気に駆け抜けていくことになる。
「電荷は結合して一種のプラズマのような状態になり、猛スピードで移動し、地表ではじけて空中放電を起こします。これが色鮮やかな光の正体です」
フロイント氏は、世界中で発生する地震で、発光の条件が揃うケースは0.5%未満だという。比較的まれな現象というのも、もっともだ。
「一口に地震発光現象といっても、決まった形状や色があるわけではありません。地面からくるぶしの高さまで上昇する青味がかった炎のような光や、空中を数十秒から時には数分ほど漂う光の玉などの目撃例が多いです。雷によく似ているが上空からではなく、地面から伸びる一瞬の閃光(せんこう)が最大200メートルに達したという証言もあります」
「タイミングや場所もそれぞれ異なります。大地震の数週間前に発生する場合や、実際に揺れている最中に光ることもある。また、震央から160キロ離れた地点で観測された記録も残っているそうです」
フロイント氏の研究チームは、世界規模の地震予知システムの開発に取り組んでいる。今回の研究を基に、発光現象も予知の指標の1つとして組み込まれることになるという。
「特徴的な発光現象が3つ、4つと続いたら、地震が発生する可能性が高いといえます。頻繁に目撃できる訳ではありませんが、もし突発的に光った場合には十分注意してください」
地震予知に利用する意見には懐疑的な研究者も多いが、フロイント氏は方向性には自信を持っている。
「発光の詳細を理解し、ほかのさまざまな指標と組み合わせれば、予知の精度を高めることができるはずです」
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。世界のニュースを独自の視点でお伝えします。
3/22/2020