ださいたま 埼玉 彩の国  エッセイ 

埼玉県について新聞、本、雑誌、インターネット、TVで得た情報に基づきできるだけ現場を歩いて書くエッセー風百科事典

ねぎサミット 深谷市

2010年11月23日 19時40分35秒 | お茶・農業


煮ても、焼いても、揚げても、焼鳥に挟んでも、生で薬味としても、食える野菜「ねぎ」――。12月から2月にかけてのすき焼きなど鍋料理の本格的なシーズンを前に、全国市町村でトップの出荷量を誇る深谷市で10年11月20,21日の両日、「全国ねぎサミット」が開かれ、全国の産地10市町と5人の市長が、おらが里のねぎ自慢を繰り広げた。

県別出荷量では埼玉県は、千葉県に次ぎ第2位だ。ねぎの世界も深くて、長くて、面白い。

参加したのは、「深谷ねぎ」を筆頭に、深谷についで第2位、夏ねぎでは全国一、冬場の定番「鍋ねぎ」が売り物の「坂東ねぎ(茨城県坂東市)」、京野菜の一つ、歴史を誇る「九条ねぎ(京都市)」、真っ直ぐではなく曲がっている「阿久津曲がりねぎ(郡山市)」、白い根の部分が赤い「平田赤ねぎ(酒田市)」、越後美人のイメージから名付けられた「やわ肌ねぎ(新潟市)」、江戸時代に将軍家に献上されていた、別名殿様葱の「下仁田ねぎ(下仁田町)」、葉ねぎと根深ねぎの二種類の「矢切ねぎ・あじさいねぎ(松戸市)」(全国第3位)。

県内からは、高級食材として名高い「越谷ねぎ(越谷市)」、古典落語「たらちね」にも登場する「岩槻ねぎ(さいたま市)」、と、いずれ劣らぬ由緒ある“ねぎのエリート”たち。

こう並べただけで、いろいろなねぎがあるものだと感心する。

ねぎは一般に、関東では白いところを食べる根深ねぎが、関西では緑の葉も食べる葉ねぎが好まれるという違いがある。「九条ねぎ」は、葉ねぎで、霜が降りる頃からとろっとした甘い“あん”が葉に蓄えられ旨みが増すといい、平安朝前期から京都市九条地域で栽培されていたとか。

「阿久津曲がりねぎ」が曲がっているのは、郡山市阿久津の土壌の粘土が強く、作土が浅いため、夏に掘り起こして斜めに植え替える「やとい」という作業をするため。

「平田赤ねぎ」の赤色は、酒田市平田地区が最上川と相沢川の合流地点だったことから、土壌のせいのようで、赤紫色のワインカラー。赤色部にアントシアニンやポリフェノールを含み、ビタミンCの含有量も多く、風邪薬としても重宝されてきた。

県内のねぎも負けていない。ねぎ自慢で「深谷ねぎ」をPRした青年農業者の団体「ふかや4Hクラブ」の代表によると、深谷ねぎは一つの品種名ではなく、深谷地方で栽培されるねぎの総称。

特徴は繊維のきめが細かく柔らかいこと。糖度が高く、甘いこと。白根の部分が長く、皮を剥くと白く美しいこと。糖度は10~15度前後あり、ミカンなどに匹敵、すき焼きに砂糖を入れない人もいるほど。

こんなねぎができるのは、利根川流域の栄養分豊かな土壌と晴天の日が多いので、冬場の日照時間が長く、内陸部で一日の寒暖の差が激しい自然条件による。深谷市では、太さ、形など特に優れたのに付けられる「ふかちゃん印深谷ねぎ」ブランドを制定したという。

深谷では、畑の近くを歩くと、ねぎの香が漂ってくる。「ねぎは深谷の代名詞」なのだ。

「越谷ねぎ」は、江戸時代の文献に「越ヶ谷辺の名物」と書かれているように古くから栽培されてきた。煮崩れしないのが特徴で、東京の有名料亭などで使われている高級食材。

市内に宮内庁鴨場があるので、このねぎと鴨を合わせた「こしがや鴨ねぎ鍋」は、「彩の国鍋合戦」で第2回と第4回に優勝している。「鴨がねぎをしょって来る」とは縁起のいい名前だ。

「岩槻ねぎ」は、関東では珍しい青ねぎ(葉ねぎ)で根も葉も食べられる。古典落語「たらちね」にも登場したほどなのに、葉が非常に柔らかなので積み重ねることができず、物流に耐えられなくて、まぼろし化した。

「にぎわい」ならぬ「ねぎわい」を狙って、飲食店主らの「岩槻ねぎ倶楽部」がこのねぎを扱う店の地図「ねぎわいマップ」を作り、復活に向けPRに努めている。

ねぎは、辛味や匂いの成分「硫化アリル」には血液を固まりにくくしたり、血糖値低下、血圧上昇を抑える働きもある健康食品。新陳代謝の促進、疲労回復にも役立つ。おおいに食べて本格化する冬を乗り切りたい。

11月29日の読売俳壇のトップに「しぐるゝやモツ煮の上のきざみ葱」という句があった。ネギなしで成り立たないツキダシもある。モツ派の私はもう飲みたい気分である。


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