新古今和歌集の部屋

尾張廼家苞 恋歌四 1

尾張廼家苞 四之下
 

尾張廼家苞 四之下
新古今集
 戀
   題しらず          後徳大寺左大臣
うき人の月はなにぞのゆかりぞとおもひながらも打ながめつゝ
何ぞのは何のにてそもじ そもじ濁りてよむはわろし。いくばくといふ事をい
                  くそばくと云そにて清てよむ例也。何のゆかりにてと
いふ事
なり。 月はうき人の何のゆかりぞ。何のゆかりにてもなきとは
思ひながらも、うちながめつゝかこたるゝ事よと也。
                    西行
月のみやうはの空なるかたみにておもひもいでば心かよはむ
月はうはの空なる形見にて、二句うはの空なる契りともじをくはへ
                    てみるべし。契し人の心はかかはりたれ
と、契りとかけし月かげはかはらぬが、
すなはちうはの空なる形見也。さてたがひに思ひ出たらん時に、かはりし人
                                            が、月を
みて其契を思ひ出す事也。互にと云
意はなし。我はわすれざる事勿論也。心のかよはむ形見は其月のみにや
あらんといふ意なり。心かよはむを主
            としてよみたる哥也。にてといふニ心をつくべき哥也。一首の意、
                                             月ニかけて
契りたりし事ある人ニがわすれ果たれば、その月はうはの空なる形見にてあれど、もし
かく契りし事よと思ひ出たらば、其時ばかり心がかよふてかなあうとなり。
くまもなき折しも人をおもひ出てすゞろに月をやつしつる哉
くまもなき折しもとは、月かげのくまもなき折しも成。やつすとは、そこなひてわろ
くする事。一首の意、くまもない月影も、恋しい人をおもひ出して涙がこぼるゝ
故にわかもなく月をくもらしたと也。
すゞろは俗にわけもなくといふ。
物おもひてなかむるころの月の色にいかばかりなる哀そふらん
一首の意、恋に物おもひをしてながむれば、月が身にしむ。
これはどれほどの哀がそふてゐることぞとなり。
                   八條院髙倉
くもれかしながむるからに恋しきは月におぼゆる人のおもかげ
いつそくもれかし詠るにつけて身にしみて恋しいは月かげに恋しい人の俤が
立ていとゞおもひ出さるゝと也。おぼゆるとはおもjひ出す事。
   百首御哥の中に  太上天皇御製
わすらるゝ身をしる袖の村雨につれなく山の月は出けり
下句は村雨には空かきくもりて月はみえぬ物なるに我袖
の村雨にはさはらずさりげもなく出たると也。身をしる雨とは
                           うきは我身と
おもひしるにつけてこぼるゝ涙をいふ。一首の意は人にわすられて身の
うさにこおぼるゝ袖の泪の村雨にしんぼうつよく月かげは晴て出ると也。つれな
くとあるに我袖の涙をあはれとも思はずしらずがニ出
たる月をもかこつ心あり。つれなきに
                  此心はなし。
 
※すゞろ→こゝろ
 
 
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