新古今和歌集の部屋

尾張廼家苞 恋歌四 10

尾張廼家苞 四之下
 
 
  
 
 
 
 
            雅經
草まくらむすびさだめんかたしらずならはぬ野べの夢のかよひぢ
上句は、本歌よひ/\に枕さだめむ方もなしいかにねし夜が
夢にみえけむとある。四ノ句は、いづ方にいかに枕をしてねたりし夜か
といえへる意なり。こゝのこゝろは、今だでねならはず、方角もし
らぬ野べなれば、枕をさだむべき方もしられずと也。結句は
故郷の夢をみあほしくおもひての歌なれば也。一首のさま、めでた
                             羈旅歌にて、戀
にはうとき心地するは、
正明がいたり淺きにや。通路野べによしあり。哥のおもてはたゞ旅宿
のこゝろなれども、本歌によりて戀にはなる也。古歌は詞ばかりを
                             とる物なれば、それニ
いて戀の哥とな
らん事心えず。 三ノ句いふならず。
和歌所歌合に深山戀 家隆朝臣
さても猶とはれぬ秋のゆふは山雲ふく風も嶺にみるらん
二ノ句、秋といへるは雲吹風によしあり。又人の秋の意也。四句
は雲を風のふけばなびく意也。嶺にといへる、みゆらんによ
し有。一首の意は、ゆふは山の秋の夕暮に風の雲を吹て
なびくけしきもみゆらん物をつれなき人は、さても猶な
びかずしてとひも來ぬと也。とはれぬは男の忘れたるにて、男のつら
                 き也。なびかぬは女のうけひかぬにて、女の
つらき也。此説男女混して通じがたし。一首の意は、夕ぐれのは山の嶺にて、
風の雲をふくけしきは、おもふ人のもとにもみゆるであらうに、それでもやはり
我はとはれぬといふ事也。かくておもhば、雲といふもじに必とはれるべき事有
ことしるし。是も楚王の雲雨の事か。さらば淺の雲なるべきに、夕は山は
事だがへれど、猶雲をみてしのべといふ事のみをおもひて、さしもこまかに朝
暮の論はなかりしにや。は山は、和名抄に麓の字をよめれと、筑波山は山
しげ山しげゝれどなどあるは、麓の字よくあたれりとも
みえず。たゞみ山などいふ事と心えてあるべきにや。
            秀能
思ひいる深きこゝろのたよりまでみしはそれともなき山路哉
いとゝき難き歌なり。さればさしもあらず。三ノ句は此ころの風にてほのか
            なる詞づかひなれど、これはよくきこえたり。便とは、
おもひ入心をたとふるたよりなり。此句の上にたとへにするといふもじをくはへ
て心うべし。それともなきは、それにあらぬにて、似よりもせぬ意。一首の意は、わがおもひ
入心をたとえる便までにみしも
似つかず。山路は淺き事となり。されど試にいはゞ、心のたよりとは、我
おもひ入たる深き心のほどはたとふべき物もなきを此み
山の深きことは、我心の程をたとふべきたよりとまでかねてはみ
しといふ意にて、さて分入てみれば、此山路もさらに我心
の深きには及ばず。さしもなき事よといふ意也。たより迄とは、
便と、迄の意にて、まではそれほどにまで深き山路とみし云意也。
題しらず       長明
詠めてもあはれとおもへ大かたの空だにかなし秋の夕ぐれ
三四の句、戀をせぬ人だにかなしといふ事。一首の意は、戀をせぬ人でも恋しき秋の
夕ぐれなるに君をこふる我はいかばかりならんと、空をながめても哀とおも
へと也。三四五一二とつゞけてみるべし。もし此説のごとくならば、四の句空だ
にかなしきとあるべきが如し。別にゆゑありて、正明が僻案にや。
千五百番哥合に  通具卿
ことの葉のうつりし秌も過ぬれば我身しぐれとふるなみだ哉
今はとて我身しぐれとふりぬればことのはさへにうつろひ
にけりといふ哥をとれり。然るにたゞ涙をいへるのみにて、其
外は本歌にさのみかはる事もなきはいかにぞや。一首を誤解
                               しての論説
なれば、皆
あたらず。 そのうへ秌も過ぬればしぐれとふるといふ事、
時節の次㐧はさる事なれども、たとへたる戀の意の方は、
過ぬればといへる何のよしぞや。秋は実事也。た
                     とへにあらず  上句言葉も
うつろふ人の秋ふけてなどこそらまほしけれ。かく、あ
                            れば持
法に小器量なる哥になる。此集には大器量なる哥をえらびてとられたる
物をや。一首の義、言葉のうつりし秋とは、秋あはんと契し事、そのほども過
ぬれば我身はしぐれの
如く涙がふるとなり。
 
 
 
※よひ/\に枕さだめむ~
古今集恋歌一
 題しらず          よみ人知らず
よひよひに枕さためむ方もなしいかにねし夜か夢に見えけむ
 
※筑波山は山しげ山しげゝれど
新古今和歌集巻第十一 戀歌一
 題しらず
             源重之
筑波山端山繁山しげけれど思ひ入るにはさはらざりけり
 
よみ:つくばやまはやましげやましげけれどおもいいるにはさわらざりけり 隠
 
意味:筑波山の周りの里の山や木の茂った山がいくら茂っているように障害は多いとしてもが、歌垣の場所へ貴方に会いに行くと決心した私には、障害にはなりません。
 
備考 歌枕 筑波山。時代不同歌合、歌枕名寄、俊成三十六歌仙、宗長秘歌抄、新古今和歌集抄出聞書(陽明文庫)
 
※今はとて~
古今集 恋歌五
 題しらず
              をのゝこまち
今はとてわか身時雨にふりぬれは事のはさへにうつろひにけり
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