ついひぢのおほひの下に小家を作りて、
はかなげなる跡なしことをしてあそび
侍りしが、俄にくづれうめられて、あとか
たなくひらにうちひさがれて二の目など
一寸ばかりうち出されたるを、父母かゝへて
聲もおしまずかなしみあひて侍りしこそ、
あはれにかなしく見侍りしが、子のかなしみ
には、たけきものも恥をわすれけりと
覚えていとおしく理かなとぞ見侍りし
かくおびたゞしくふることはしばしにてやみ
にしが其名残しばしは絶ず。よのつね
ついひぢのおほひの下に、小家を作りて、はか
なげなる跡なしことをして、遊び侍りしが、俄
にくづれ、埋められて、跡かたなく、ひらにう
ちひさがれて、二の目など、一寸ばかりうち出
されたるを、父母かゝへて聲もおしまず悲しみ
あひて侍りしこそ、 哀れに、悲しく見侍りしか。
子の悲しみには、たけきものも恥を忘れけりと
覚えて、いとおしく理かなとぞ見侍りし。
かくおびたゞしく震ることはしばしにて止み
にしが、その名残り、しばしは絶ず。世の常
※前半部分は、流布本系特有のものであり、古本系には無い。
(参考)前田家本
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斯【く】おびただしく震る事は、暫しにて止み
しかども、その名残、屡々絶えず。世の常
※【 】内は不鮮明の為大福光寺本より補う。
(参考)大福光寺本
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カクヲヒタゝシクフル事ハシハシニテヤミ
ニシカトモソノナコリシハシハタエスヨノツネ
竭而谷虚丘夷而淵
實といへる◯せ也。
小家を作りて 今の世に
もおさなき子ども、木の
はじをかつて、ちいさき家
など作りてあそぶこと有。
ふること 地震はふるといふ
也。これは俗にはゆるとも云
り。地ふるふとかくゆへ也。
四大種 地水火風也。
齊衡 文徳天皇年号
也。此地震齊衡二年
五月五日也。同三年
三月大地震也。
東大寺 大和国聖
武天皇神龜五年始