五十三段 逢ひがたき女
四十九 業平ノイモウト
むかし男いもふとの、いとおかしげなりけりを、見をりて
うらわかみねよげに見ゆる若草を人のむすばんことをしぞ思ふ
と聞へけり。かへし
初草のなどめずらしきことのはぞうらなく物を思ひけるかな
五十
むかし男ありけり。うらむる人をうらみて
鳥の子を十つゝ十はかさぬとも思わぬ人を思ふ物かは
といへりければ
あさ露はきへのこりても有ぬべし誰か此世を頼み果べき
又おとこ
ふく風にこぞの桜はちらずともあな頼みがた人の心は
又女かへし
古今◯作者
ゆく水に数かくよりもはかなきは思はぬ人をおもふなりけり
又おとこ
ゆく水と過るよはひと散花といづれまててふことを聞らん
あだくらべ、かたみにしける、男女のしのびありきしける事成べし。
五十一
むかし男人のせんざいに、菊うへけるに
古今
うへしうへば秋なき時や咲ざらん花こそちらめねさへ枯めや
五十二
むかし男有けり。人の件より、かざり粽おこせたりける返事に
あやめかり君はぬまにぞまどひける我は野に出てかるぞ佗しき
とてきじをなんやりける。
五十三
昔男あひがたき女に逢て、物語などする程に、鳥のなきければ
いかでかは鳥のなく覧人しれず思ふ心はまだ夜ふかきに
五十四
むかし男つれなかりける女にいひやりける
行やらぬ夢路をたどる袂には天津そらなる露や置らん
五十五
昔男思ひかけたる女の、えうまじうなりてのよに
思はずは有もすらめと言のはの折ふしごとに頼るゝかな
五十段 あだくらべ