新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 二の巻 秋歌上3

だいしらず      七條院ノ権ノ大夫

秋來ぬと松吹風もしらせけりかならず荻の上葉ならねど

めでたし。下句詞めでたし。 かならずは、俗にあながち

といふ意なり。こは哥にはをさ/\よまぬ詞なるを、此哥に

にては、一首のまなことなりて、めでたし。

百首哥に        式子内親王

うたゝねの朝けの袖にかはるなりならす扇の秋のはつかぜ

七夕のうた       俊成卿

たなばたのとわたる舩のかぢのはにいく秋かきつ露の玉づさ

初二句は、題の事を、すなはち序にしたる也。 露の玉、梶

の葉に縁あり。 後拾遺に、√天川とわたる舩のかぢのはに云々。

守覚法親王家五十首哥に 顕昭

萩が花真袖にかけて高圓の尾上の宮にひれふるやたれ

詞はよし。 萩が花を袖にかけて、ひれふるといふうこと、

いと/\心得ず。万葉めきてよみたれど、すぢなきこと也。

千五百番歌合に     左近中将良平

夕されば玉ちるのべのをみなべし枕さだめぬ秋風ぞふく

下句めでたし。 露を玉ちるといへること、よせなく聞ゆ。

百首哥に          式子内親王


花ずゝきまだ露ふかしほに出てながめじと思ふ秋のさかりを

めでたし。 本哥拾遺恋√しのぶればくるしかりけり

しのずゝき秋のさかりになりやしなまし。秋のさかりにな

りやしなましとは、穂にや出ましといふ意也。 こゝの

哥の意は、此すゝきを見れば、すだく露ふかく、物思はしげなる

は、いかなることぞ。今は薄も、しのびて物思ふとはあらじ。皆

穂に出たるべしと思はるゝ。秋のさかりなる物をと也。 露ふ

かしといひ、ながむといへる。ともに忍びて物思ふ意也。本哥の

初二句にて、然聞えたり。さて秋のさかりをといへる詞にて、

その本歌をとれることをしらせたりよく/\味ふべし。

ふるき抄の説、みなひがごとなり。

題しらず        慈圓大僧正

身にとまる思ひを荻の上葉にて此ごろかなし夕暮のそら

詞めでたし。 まづ秋の夕暮は荻の風の音を、かなし

き物によみならへるを、此哥にては、その荻の風にはあら

で、我身にとまれる秋の思ひが、荻の風の如くにて、夕暮

にはかなしきと也。さて風ともいはず、秋ともいはあるは、

ことさらにはぶきて、詞の外に思はせたるたくみ也。此人の

哥、かやうなる趣多し。 結句秋の夕暮とある本は、中々わろし。

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