見出し画像

新古今和歌集の部屋

前田家本 閑居友 建礼門女院御いほりにしのびし御幸の事

文治二年ノ春建礼門女院世をすてゝこもりゐ

させたまへるもとにいかさまにしていまそかるら

むとて夜おこめてしのひ乃御幸ありけり。そ乃

をハします所にいと(あやし)けなるあま乃とし

おひたるありけるに女院ハいつくにおハしますそ


とゝはせたまひけれはこのうゑ乃山にはなつミに

いらせたまひぬといらゑけり。いとあハれにきこし

めしていかてか世をすつといひなからミつから

ハときこゑさせたまへはあま乃申すやう家を

いてきさせ給者かりにてはいかてかさる御をこなひも

侍らさらむ切利天ノ億千歳乃たのしみ大梵天

ノ深禅定ノ樂にもかやうの御をこなひ乃ちから

にてありせたま者んするには侍らすやうき世を 


文治二年の春、建礼門女院世を捨てゝ隠り居させ給へる元に、如何樣にしていまそかるらむとて、夜おこめて忍びの御幸ありけり。

その御座します所にいと賤しげなる尼の歳老ひたる有りけるに、

「女院はいづくにおはしますぞ」と問はせ給ひければ、

「この上の山に花摘みにいらせ給ひぬ」といらゑけり。

いと哀れに聞こし召して

「如何でか世を捨つと云ひながら、自らは」

と聞こゑさ給へば、尼の申すやう

「家を出で来させ給ばかりにては、如何でかさる御行ひも侍らざらむ。

忉利天ノ億千歳の樂み、大梵天の深禅定の樂みにもかやうの御行ひの力にて、ありせ給はんずるには侍らすや。

うき世を

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「平家物語」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事